宝塚星組トップコンビ・紅ゆずる綺咲愛里のサヨナラ公演『GOD OF STARS-食聖-』

『GOD OF STARS-食聖-』('19年星組・東京・千秋楽)より
『GOD OF STARS-食聖-』('19年星組・東京・千秋楽)より

8月9日(日)にタカラヅカ・スカイ・ステージで放送される『GOD OF STARS-食聖-』は、アジア各国を舞台に繰り広げられる「クッキング・コメディー」だ。傲慢だが料理にかけては天才的な腕を持つホン・シンシン(紅ゆずる)が、シンガポールで潰れそうなホーカーズ(屋台)を切り盛りするアイリーン(綺咲愛里)と出会い、人間らしい心を取り戻していくという物語。キーワードは"料理は愛"である。

星組トップコンビ、紅ゆずる・綺咲愛里のサヨナラ公演であり、さらに紅の後を受けて星組トップスターとなった礼真琴へのエールも込められている。

『GOD OF STARS-食聖-』に出演した紅ゆずる

©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

端正な佇まいの二枚目が似合う一方で、宝塚史上屈指のコメディエンヌとしても名を馳せた紅。抱腹絶倒の落語ミュージカル『ANOTHER WORLD』(2018年)の康次郎などは、そんな紅にしかできない役だった。

また、紅が演じるキャラクター「紅子」も忘れられない存在。30代独身の客席案内係で、大の「ゆずる」ファンの紅子は、これまで幾多のショーに現れてそのトーク力で客席を沸かせてきた。今回放送される千秋楽サヨナラショーにも登場し、客席の涙を吹き飛ばす様子が見られるはずだ。

『GOD OF STARS-食聖-』は、そんな個性派トップスターの紅にぴったりの作品。主人公ホン・シンシンは実は『西遊記』に登場する「紅孩児」の生まれ変わりであり、人間離れしたパワーで大暴れする。一見超ワガママだが、意外と繊細な心の持ち主で内面に孤独を抱えている。

©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

そのホンを「料理の聖人コンテスト」で迎え撃つのが、中華料理学院を首席で卒業したリー・ロンロン(礼真琴)である。このキャラクターがこれまたチャーミング。基本的に弱気だが、憧れの歌姫クリスティーナ・チャンを前にしたとたん自信満々に豹変する。ちなみにクリスティーナを演じるのが新トップ娘役として礼とコンビを組むことになった舞空瞳である。

リーを演じる礼真琴は歌・ダンス・芝居と三拍子そろった実力派として将来を嘱望されてきた。よくできる人は「完璧すぎて面白みがない」などと嫉妬まじりに言われがちだが、この作品ではリーがそんな優等生ならではのコンプレックスと向き合い、克服していく姿もさわやかに描かれる。

©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

料理は恐ろしく下手だが、親の代から続く屋台を懸命に守っていこうとするアイリーン(綺咲愛里)。その健気な姿に、固く閉ざされたホンの心も少しずつ開いていく。物語の大詰め、「完璧だから愛されるわけじゃない。不完全だから支え合い、愛し合うんだってこと!」というアイリーンの台詞に、紅・綺咲コンビの魅力が凝縮されている。ときめく「恋人同士」というよりも、愛と信頼で互いを支え合う「夫婦」という形容の方がしっくり来るトップコンビだったと思う。

「熱い体育会系」と言われる星組が、群衆シーンでその持ち味を存分に発揮した作品でもある。屋台の雑踏の中には、ニコラス(瀬央ゆりあ)率いるご当地アイドル「パラダイス・プリンス」を追っかけるオタク女子、さらには紅孩児を追ってやって来た天界の住人まで、ありとあらゆる人が入り混じっている。よくよく見るとあちこちで色んなドラマが生まれているので、舞台の隅々にまで注目してみたいところだ。

コメディーなのに、何故か泣けてしまう。グッとくる名台詞も多い。そして、見ると必ず美味しい餃子が食べたくなるので、暑い夏、ビールと餃子を準備して楽しむのがおすすめだ。

文=中本千晶

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放送情報

『GOD OF STARS-食聖-』('19年星組・東京・千秋楽)
放送日時:2020年8月9日(日)20:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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