「このマンガがすごい!2019・オンナ編」の1位に選ばれるなど、多くの支持を集めた鶴谷香央理の同名コミックを実写化した映画「メタモルフォーゼの縁側」。歳の差58歳――17歳の女子高校生と75歳の老婦人が、BL(ボーイズ・ラブ)コミックを通じて友情を育んでいく様子を、「青くて痛くて脆い」(2020年)で知られる狩山俊輔監督が瑞々しく描き出した本作が、2月19日(日)にWOWOWシネマで放送される。
■毎日こっそりBLマンガを読む内向的な女子高生を演じた芦田愛菜
人付き合いが苦手な17歳・佐山うららを演じたのは、近年バラエティ番組やCMなどでも存在感を発揮している芦田愛菜。当時5歳ながら大人顔負けの名演技を見せた「Mother」(2010年)に始まり、主題歌「マル・マル・モリ・モリ!」のダンスが大反響を呼んだ「マルモのおきて」(2011年)、ハリウッドデビューを果たした映画「パシフィック・リム」(2013年)など、ドラマや映画にと数々の最年少記録を塗り替えてきた。それから約10年、製作時には現役高校生だった芦田が、内気な17歳の女子高生うららを等身大に演じている。
地味で冴えない雰囲気、自分への鬱屈した思いを抱え拗ねたような表情、好きなものに夢中になる瞳の輝き。未来への焦燥感を抱えつつ、様々な物事に戸惑い、照れたり笑ったり大泣きしたり、芦田が体現する、うららの心の動きがあまりにも自然で、目が離せなくなってしまう。
■名優・宮本信子が、BL漫画にときめきを覚える老婦人の素敵な感性を体現
一方、夫に先立たれ孤独に暮らす75歳の老婦人・市野井雪は宮本信子が演じた。伊丹十三監督の映画「お葬式」(1984年)や「マルサの女」(1987年)で国内外の映画賞を受賞し、以降も映画やドラマに舞台、はたまたJAZZ LIVEと、幅広く活躍。2014年には紫綬褒章を受章するなど、言わずと知れた日本を代表する名優の1人だ。
芦田とは、祖母とその孫娘役で出演した「阪急電車 片道15分の奇跡」(2011年)以来の約10年ぶりの共演となる。可愛らしい素敵な老婦人・雪は、実は本当に存在しているのではないか...そんな錯覚を覚えるほどの、自然な佇まいは流石だ。
2人が出会ったきっかけは、うららがバイトする本屋に、一冊のBL漫画を手にした雪が現れたこと。雪は何も知らずに手に取ったBL漫画にときめきを覚え、うららは部屋の片隅に隠してある同じ漫画をにやついて読み返している。半世紀以上の歳の差があろうとも、好きなもので繋がっている。"推し"が世界を広げ、繋ぎ、人生を豊かにしてくれる。
■"縁側"が象徴する、大事な人と好きなものを共有する「幸せ」
そしてうららと雪は、BL愛を語り合う日々の中で、創作漫画の即売会・コミティア出展への挑戦を決意する。
本気だからこそ傷つき悩まされるけれど、力が湧いてきて頑張れる。依存することなくそれぞれが孤独と闘いながら自分自身と向き合い、"メタモルフォーゼ(=変身)"していく2人の友情が清々しく、眩しい。人生の先輩でもある雪の飾らない言葉の一つ一つが、胸に真っ直ぐに響く。恥ずかしくても不器用でも青春を駆け抜けていくうららの真剣な横顔や涙に強い共感を抱いた。
そして、新しい価値観を吸収してゆっくりと成長していくうららの姿と芦田本人とが、次第に重なり合って見えてくる。名優・宮本信子とのマンツーマンとも言える再共演を経て、彼女自身も女優としてさらなる"メタモルフォーゼ"していくようだった。好きなものを分かり合える友達と気兼ねなく語り合う、あの縁側のような場所がいつまでもどこかにあってほしいと願う。
文=中川菜都美
放送情報
メタモルフォーゼの縁側
放送日時:2023年2月19日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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