市川猿之助が新しいエンタメで紡ぐ人気漫画「ワンピース」の最も泣けるエピソード

歌舞伎俳優であり、ドラマや映画などでも活躍する四代目市川猿之助。そんな彼が新しいエンターテインメントへの挑戦として上演しているのが「スーパー歌舞伎II」だ。

「スーパー歌舞伎II」とは、三代目市川猿之助が1986年に始めた、古典芸能化した歌舞伎とは異なる演出による現代風歌舞伎「スーパー歌舞伎」の精神を受け継ぎ、四代目市川猿之助が始めた新しいエンターテインメント。ここでは、歌舞伎は歌舞伎であるが、由緒正しい古典芸能としての歌舞伎と線を引くためにも"新しいエンターテインメント"と表現させてもらおうと思う。中でも、世界的人気漫画「ワンピース」の世界と融合を果たした『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』は大きな話題となり、2015年に初演を迎え、2017年には再演もされた。

とはいうものの、歌舞伎の要素は色濃くあるため、ご覧になっていない方々から「あの『ワンピース』との相性は、正直どうなの?」という懐疑的な意見が多く寄せられそうだが、意外とマッチしているから不思議だ。猿之助演じるルフィを始め、歌舞伎俳優や浅野和之、嘉島典俊、福士誠治ら歌舞伎以外の俳優陣が演じるキャラクターたちは、「スーパー歌舞伎II」の世界に落とし込むと見事にハマっている。何より目からウロコなのは、原作のストーリー自体が見どころ満載であるためまさに"歌舞伎"的なのだ。「ワンピース」の代名詞とも言える効果音の表現「ドン!」などは良い例だ。そんな"決め"の部分で披露される"見得"は、観ていて爽快感を感じさせてくれ気持ちがいい。歌舞伎初心者でも「このタイミングで掛け声をかけるのかな?」となんとなく分からせてくれる側面もあり、「歌舞伎に興味がない人にも、興味を持ってもらいたい」という猿之助の意思もくみ取れる。

何より、古典芸能の歌舞伎に触れる時の最も高いハードルである「"口跡"(=台詞回し)に馴染みがなくストーリーについていけない」という課題をクリアしているところに、この「スーパー歌舞伎II」のすばらしさがあるといえよう。現代の台詞回しで、観客はストーリーを追えるし、登場人物に感情移入もできる。加えて、歌舞伎の特徴を随所にちりばめることで、歌舞伎でも演劇でもミュージカルでもない全く新しいエンターテインメントが創出されている。しかも、大量の水が滝のように流れる中での大立廻りや最新のプロジェクションマッピングを使った演出など、ケレン味溢れる、「スーパー歌舞伎Ⅱ」ならではのストロングポイントを生かした演出には思わず息をのむほど。

その中でも、最も歌舞伎的な要素で他のエンタメにはない特徴である"早替り"は圧巻。あえてここでは誰が何と何を演じているかには言及しないが、観賞後に調べてみると役者陣の演じ分けに必ず驚かされるはずだ。

加えて、ファン人気も高い「マリンフォード頂上戦争」を描いているところもポイント。海軍、白ひげ海賊団、麦わらの一味、黒ひげとそれぞれの思惑が渦巻く中で、大きく動く展開はファンならずとも引き込まれるからだ。そんな超大編をうまく歌舞伎と融合させた猿之助の演出の手腕はさすが。

歌舞伎の要素と最新技術を駆使した演出、俳優たちのクオリティの高い芝居の技術などから生まれる「スーパー歌舞伎II」で、人気漫画「ワンピース」の最も泣けるエピソードである「マリンフォード頂上戦争」を描いた"新しいエンターテインメント"の魅力に浸りつつ、猿之助の俳優と演出家としての高い才能に触れてほしい。

文=原田健

この記事の全ての画像を見る

放送情報

<シネマ歌舞伎>『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』
放送日時:2023年3月12日(日)17:15~
チャンネル:ホームドラマチャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくはこちら

キャンペーンバナー

関連記事

記事の画像

記事に関するワード