吉岡秀隆が「Dr.コトー診療所」での圧倒的な演技力で魅せるブレない役作り

吉岡秀隆の代表作の一つである「Dr.コトー診療所」は、昨年、16年ぶりの続編となる劇場版が公開され、主要キャストの再集結や新たに参加した豪華キャストなどが大きな話題を呼んだ。

同シリーズは、山田貴敏による同名漫画を実写化したもので、沖縄・八重山列島にある架空の島、志木那島を舞台に繰り広げられる医療ヒューマンドラマ。2003年に第1期、2004年に特別編とスペシャル版、2006年に第2期が放送された。日本映画専門チャンネルでは、3月4日(土)より同TVシリーズを2ヶ月にわたり放送する。東京の大学病院で外科医をしていた五島健助(吉岡)が島の診療所に医師として常駐することになるが、過去の経緯から島の医師を信用していない島民らは全く診療所に寄り付かない。そんな設備も環境も満足ではない状況の中、五島は人柄と高い医療技術によって次第に島民の信頼を得ていく。

離島での過酷な医療状況と島民たちのひと際強い結びつきを両輪に、シリーズを通して五島の命の尊さに執着する姿や、穏やかな人柄によって島民たちの意識が変わっていく様子、五島の身近な人々を襲う悲劇や苦渋の選択をする姿などを描いている。医療ドラマとしてのドラマチックな展開に加え、観る者を思わずハッとさせるような人間物語が魅力。劇場版で19年という長い時間の経過を描けるというのは後者の人間物語の部分がしっかりと描かれているからにほかならない。それにはやはり主演の吉岡の演技によるところが大きい。

第1期の第1話、登場の1シーン目から漁船の上で船酔いのため嘔吐するなど、五島はとても頼りなく描かれており、島民たちの診療所の医師に対する信頼もより一層失われるところからスタートするのだが、穏やかで誰の発する言葉にも耳を傾けて正面から受け止め、童話「北風と太陽」に登場する太陽のように、急がずじっくりと優しく島民たちに寄り添って心を溶かしていく五島を、吉岡はシリーズを通してブレずに演じ切っている。

吉岡自身の持つ優しげな雰囲気も相まって、一見頼りなく見えるが、つい何かと相談したくなるような温かみのある人物として表現しているからこそ、五島に対する認識を改めたり、離島の過酷な医療状況に立ち向かおうと意識を変えていく周囲のキャラクターたちの変化が際立つのだ。

それは吉岡の子役時代から培われた圧倒的な演技力によって支えられているといえるだろう。ゆったりとした口調、自己主張が弱めなせりふ回し、頼りなげなオーラを醸し出す所作、少し猫背ぎみなところなど、細かい部分の積み重ねによって構築された丁寧な役作りによって、ベースとして"存在感は希薄なのに物語の中心になっている"という独特なキャラクターを作り上げている。一方で、医療行為における決断や命を守ろうと奮闘するシーンでは、しっかりとした信念に基づく断固たる意志をのぞかせるギャップで魅せてくれる。

すぐに周りに影響されてしまいそうに見えながらも、実はどのキャラクターよりもしっかりと頑丈に作られた役だからこそ、周りの変化を受け止めることができ、ストーリーの中で成長していく島民たちに寄り添い続けられるのだ。

19年にわたり孤島に生きた一人の医師の物語を今一度振り返りながら、吉岡の圧倒的な演技力で構築されたブレない役作りにも注目してみてほしい。

文=原田健

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放送情報

Dr.コトー診療所(全11話)
※本作に続けて、「Dr.コトー診療所 特別編」(全2話)も放送。
放送日時:2023年3月4日(土)13:30~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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