名古屋・御園座での宝塚歌劇星組公演「王家に捧ぐ歌」。この公演はコロナ禍による初日の延期により、10日間という短い上演期間となってしまった。それだけに、放映を楽しみに待ち望んでいた人も多いだろう。
「王家に捧ぐ歌」は、オペラで有名な「アイーダ」を、宝塚歌劇バージョンとして新たな脚本(木村信司)、音楽(甲斐正人)で舞台化したものだ。2003年に星組で初演され、2015年には宙組でも上演された作品の待望の再演である。劇中の楽曲はオペラとは異なるが、どれも耳に残る名曲ばかりだ。
古代エジプトの将軍ラダメス(礼真琴)と、囚われの身となっているエチオピアの王女アイーダ(舞空瞳)は互いに愛し合うようになる。だが、エジプトの王女アムネリス(有沙瞳)もまたラダメスを愛しており、ラダメスが自分と結婚して次なるファラオの座につくことを望んでいた。
ラダメスは両国の争いを終わらせるためにエチオピアと戦い、勝った上でこれを解放する。だが、エチオピア人の憎しみが消えることはなく、争いのない世界で愛に生きたいと願う2人は悲劇に巻き込まれていく。
ラダメスを演じる星組トップスター・礼真琴の魅力のひとつは、その圧倒的な歌唱力である。それゆえ、歌で物語を紡ぐフレンチ・ミュージカルでも観客を魅了してきた。プレお披露目公演の「ロックオペラ モーツァルト」(2019年)に始まり、「ロミオとジュリエット」(2021年)、そして今年も「Le Rouge et le Noir 〜赤と黒〜」「1789」と、注目の作品での主演が続く。
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「王家に捧ぐ歌」のラダメスも、そんな礼にぴったりの役どころだ。あの声で愛を切々と歌い上げられたら、心を動かされない女性はいないのでは?と思わせる。とくに2幕、ラダメスとアイーダが国を捨てて2人だけで生きていく決意をする「月の満ちるころ」の場面は圧巻だ。
しなやかに情熱的に、ラダメスとの愛に生きようとするアイーダ(舞空瞳)と、祖国を背負い、理性で感情を抑えて生きる誇り高きアムネリス(有沙瞳)。情の深さでは互いに引けを取らないが、真逆の道を生きる二人の王女の「女の戦い」も見応え十分だ。
2人の王もまた対照的だ。エジプト王ファラオ(悠真倫)は神の子が地上に降りてきたような温かみを感じさせ、エチオピア王アモナスロ(輝咲玲央)は冷ややかで不気味な存在感を放つ。
自分自身に陶酔し切っているウバルド(極美慎)、虎視眈々と機会をうかがうカマンテ(ひろ香祐)、そして、無垢な少年兵を思い起こさせるサウフェ(碧海さりお)と、ファラオの命を狙うエチオピア側の面々も三者三様だ。いっぽう、ラダメスの戦友であるケペル(天華えま)とメレルカ(天飛華音)は、平和な世の中で、戦士としての自己の存在価値を覆されていく。
衣装が一新されたことも大きな話題となった。エジプト人は白、エチオピア人は黒を基調としたシンプルなデザインは、若さと躍動感あふれる今の星組らしい。だが、「いかにも古代エジプト」のイメージが薄まったことで、これはどこの国でもありえる話なのだという意味合いも強まったように思える。
反戦と平和への強い願いが込められた本作は、今なお争いの絶えない世界における演劇の役割について、改めて考えさせられる作品でもある。
文=中本千晶
放送情報
王家に捧ぐ歌(’22年星組・御園座)
放送日時:2023年4月2日(日)21:00~
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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