病気のために芸能活動を休止していた俳優・坂口憲二だったが、2023年にビールのCMに出演。さらにフジテレビ開局65周年特別企画として放送中のドラマ「風間公親-教場0-」では、俳優として久々にレギュラー出演を果たしたことで話題を呼んでいる。ドラマ出演は2014年の「医龍 -Team Medical Dragon-4」以来で、実に9年ぶりとなった。
坂口が出演したドラマは、天才外科医・朝田竜太郎役で主演した「医龍」シリーズをはじめ数多いが、独特の色気を放つ存在感でどんな作品においても際立つ俳優のひとりであるといえる。そんな坂口の主演作のひとつが2003年に放送された2時間ドラマ「ムコ入り刑事 高山家・明の事件ファイル」(TBS系)だ。
本作は、創業100年の和菓子屋「高山屋」を営む高山家の入り婿である新米刑事・明(坂口)が和菓子を手がかりにクラブのママ殺害の犯人逮捕に挑むという物語。明は新宿中央署刑事課に配属された新米刑事だが、婿入りという条件で高山家の長女・理世子(三浦理恵子)と結婚した。だが、理世子の母・和枝(野際陽子)から店を継ぐことをしつこく迫られて肩身が狭い。そんなある日、クラブのママ・恭子(棟里佳)が自宅マンションで刺殺される。胃の内容物としてアンコと餅とゴマがあったことから、明は犯人が和菓子を手土産にしたと推理する。やがて茶道の若宗匠・大山史郎(井田國彦)が捜査線上に浮かぶ。さらに恭子と金銭がらみで揉めていた安田和也(深見亮介)の容疑も深まるのだが、安田は遺書を残して死亡。恋人のホステスも殺されていた。安田の死を不審に思った明は、恭子の殺害現場に戻ったが、そこで和菓子に使われていた団子串を発見する...。
設定こそコミカルな感じもあるが、ストーリーが二転三転する上質なミステリーに仕上がっており、事件を追う明を演じる坂口の名刑事ぶりを堪能できる見ごたえ十分の作品だ。
プロレス界のスターだった坂口征二を父に持つ坂口は、2013年の「ダブルス〜二人の刑事」(テレビ朝日系)など刑事ドラマでの活躍も印象深いが、本作の撮影当時はまだ刑事役は多くなかった。アクションはお手の物だったが、本作は推理ドラマに主軸を置いた頭脳派の刑事役だったところが面白い。入り婿という設定は、必殺シリーズの主人公・中村主水を思わせてユニークだが、むしろ「和菓子」を重要なモチーフに使った点が秀逸だった。もともとミステリーとグルメは相性がよく、イギリスでは「グルメ探偵ヘンリー」という人気作品があり、日本でも中村倫也主演の「美食探偵 明智五郎」(日本テレビ系)といった作品がある。ただ、探偵が食通というより「老舗和菓子店の入り婿刑事」という二ひねり半の設定が、まさに群を抜いている印象だ。
本作の脚本は、後に「ダブルス~二人の刑事」で坂口と再び組むことになる尾崎将也が手掛けている。演出は塚本連平で、幅広いジャンルの作品を残しているが、「刑事7人」シリーズ(テレビ朝日系)など、刑事ドラマに定評があり、彼も後に「ダブルス~二人の刑事」を担当している。尾崎とは、堂本光一(KinKi Kids)主演の「ルーキー!」(フジテレビ系)でもコンビを組んでいるので相性がいいのだろう。ちなみに同作もユニークな主人公が活躍する刑事ドラマだった。
「風間公親-教場0-」で久しぶりに坂口の姿をドラマで見て、やはり彼が魅力的な俳優であることを再認識した人は多いと思うが、本作は俳優・坂口憲二のポテンシャルを思い知らせてくれるミステリーの良作として、ぜひおすすめしたい一作である。
文=渡辺敏樹
放送情報
ムコ入り刑事 高山家・明の事件ファイル
放送日時:7月8日(土) 6:00~
放送チャンネル:ファミリー劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
詳しくはこちら