星組スター・瀬央ゆりあが持ち味を存分に発揮した公演「ザ・ジェントル・ライアー ~英国的、紳士と淑女のゲーム~」

瀬央ゆりあ
瀬央ゆりあ

星組公演「ザ・ジェントル・ライアー ~英国的、紳士と淑女のゲーム~」の放送は、残念ながら宝塚バウホールでの公演が全日程休演となってしまっただけに、心待ちにしていた人も多いだろう。

原作はオスカー・ワイルドの戯曲「理想の夫」。脚本・演出を田渕大輔が手がけた。

物語の舞台は19世紀末のロンドン。若き政治家ロバートは社交界でもてはやされている。ところが、ウィーンからやってきたチーヴリー夫人がロバートを脅し、あることを要求する。

脅しに屈したくはないが、かといって夫人の要求を跳ねつければ、自分の政治生命は終わってしまう。それに何より自分を「理想の夫」と信じている妻ガートルードの愛を失うのが怖い...窮地に陥ったロバートは親友であるアーサーに助けを求めた。アーサーは、ロバートとは対照的で出世に全く興味のない遊び人だったが、友のために一肌脱ごうと奔走し始める。

タカラヅカ版「ザ・ジェントル・ライアー」では、飄々とした自由人アーサーの方を主人公に据える。原作の「理想の夫」は、ロバートが妻との真実の愛を取り戻していく物語であるのに対して、「ザ・ジェントル・ライアー」は過去の恋愛で心に傷を負うアーサーが、これを癒して真実の愛を見つけていく物語となっている。歌やダンスもふんだんに織り込みつつ、華やかにテンポ良く展開する。

主人公・アーサーを演じるのが、星組の瀬央ゆりあ。端正な容貌と温かみのあるお芝居が心に残るスターで、「阿弖流為-ATERUI-」の坂上田村麻呂、「ドクトル・ジバゴ」のパーシャ、「龍の宮物語」の清彦など、印象に残る役も数多い。そして、この夏はフレンチ・ミュージカル「1789」でシャルル・アルトワを色濃く熱演中だ。その後は専科への異動が決まっており、ますます多彩な役での活躍が期待される。

タカラヅカ版のアーサーは、表面的にはモテるのに、実は過去の古傷に囚われ続けている。意外と不器用で自分に素直になれない男である。そんなアーサーを瀬央ゆりあが魅力的に体現してみせる。瀬央自身の持ち味が、アーサーにオーバーラップしてみえる。

逆に、堅物のようでいて要所要所でクスリと笑わせてくれるのはロバート(綺城ひか理)の方だ。その絶妙な抜け感のおかげで、人間味あふれる愛すべきキャラクターとなっている。貞淑で真面目な妻ガートルード(小桜ほのか)も、不測の事態にちゃんと対応できる柔軟さと賢さを兼ね備えた女性として描かれる。

タカラヅカ版「ザ・ジェントル・ライアー」は、アーサーと3人の女性との物語でもある。1人目は、親友の妻となったガートルード、2人目が、アーサーとも昔、何やらあったらしいチーヴリー夫人(紫りら)、そして3人目が、紆余曲折を経た今、大切に思っているメイベル(詩ちづる)だ。

謎めいた妖婦であるチーヴリー夫人は、物語の鍵を握る女性である。本役の音波みのりが休演となったため、紫りらが演じたが、彼女らしいチーヴリー夫人像を創り上げてみせていた。

一方、微笑ましいカップルとして描かれるのがアーサーとメイベルだ。肝心なときに正直な想いを伝えられないアーサー。すれ違ってばかりの二人にハラハラドキドキさせられるのも、タカラヅカ版の見どころ。

そして、物語の結末には「なるほどそう来たか!」というどんでん返しが待っている。これが原作とは一味違うのだが、実にタカラヅカらしいのだ。やはりタカラヅカでは「最後に愛は勝つ」のである。

文=中本千晶

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放送情報

ザ・ジェントル・ライアー ~英国的、紳士と淑女のゲーム~('22年星組・KAAT神奈川芸術劇場)
放送日時: 2023年9月2日(土)23:00~ほか
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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