心の渇き、人生の渇き、愛情の渇き...生田斗真主演の映画「渇水」は、さまざまな人々の渇きが描かれている。
1990年に第70回文學界新人賞を受賞し、第103回芥川賞候補作にもなった河林満の名編を実写化した本作。企画プロデュースは「凶悪」、「孤狼の血」の白石和彌、監督は「月と嘘と殺人」、「愛のこむらがえり」の髙橋正弥が務めている。
生田が演じているのは、市の水道局に勤める職員・岩切俊作だ。猛暑が続く夏の日に、岩切と同僚の木田拓次(磯村勇斗)は、水道料金滞納者の家を訪ねる。彼らの仕事は、料金を払わない家庭の水道を停めて回ることである。
無職で4ヶ月料金を支払わない伏見(宮藤官九郎)、ギャンブルに依存して女性に料金を支払わせる今西(宮世琉弥)など、さまざまな滞納者がいるなか、岩切たちは育児放棄された恵子(山﨑七海)と久美子(柚穂)という幼い姉妹と出会う。父は蒸発し、母・有希(門脇麦)も姿を消した。もちろん、彼女たちに料金を支払う能力なんてない。岩切は、姉妹から人間に必要な「水」を奪っていいものか葛藤しながらも、規則に従って停水を執行するが...。
生田はこれまでも大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の源仲章、映画「土竜の唄」シリーズの菊川玲二など、数多くの作品で登場人物を魅力的に演じてきた。しかし、岩切はどこか違う。彼の目に、彼の表情に、光がないのだ。日々、滞納者から罵倒され、文句を言われ、それでも毎日家を訪問しなければならない。やがて心をなくして表情からも覇気がなくなっていく。岩切は、いつしか「感情」を持つことに疲れ、淡々と仕事をこなす日々に慣れていったのではないか。
そんな虚無の日々に出会ったのが、育児放棄された幼い姉妹だ。映画では、姉妹と出会う前後の岩切の「心の機微」を丁寧に演じる生田がそこにいた。
岩切にとって大きな支えとなっているのが、相棒の木田であろう。彼は停水執行の仕事が好きになれないという。さらに、太陽や空気は無料なのだから「水だって本当はタダでいいんじゃないですかね」と気軽にこぼす。
磯村が演じる木田は、柔らかくて、明るくて、可愛らしい。彼がいたから岩切も救われる部分があったのではないか、とも感じる。物語の緩衝材になってくれたし、時にオアシスのように岩切にも我々にも潤いを与えてくれた。重いテーマだけに、磯村が木田を快活に演じてくれたことで安心感を得られたのは間違いない。
岩切たち以外にも、人生の海底に溺れる有希、育児放棄された姉妹の行く末...それぞれにスポットが当たり、物語は結末へと向かっていく――。
「生きる」って難しい。渇いた人生に希望はない。人間には体にも心にも「水」が必要なのだ。見終わったあと、さまざまな思いが交錯する映画「渇水」は、生田の主演最新作、映画「告白 コンフェッション」の公開記念特集の一作として、6月9日(日)から日本映画専門チャンネルで放送される。生田の光がない演技に着目して、ぜひ楽しんでほしい。
文=浜瀬将樹
放送情報【スカパー!】
渇水<PG-12>
放送日時:6月9日(日) 21:00~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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