松村北斗がパニック障害に悩む男性を好演!誰かに優しくしたくなる映画「夜明けのすべて」

アイドルグループのメンバーでありながら、俳優として活躍するのが松村北斗だ。

2021年に出演した連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」でその高い演技力が広く知れ渡ることとなり、現在もTBSドラマ「西園寺さんは家事をしない」に出演し、お茶の間を虜にしている。また、俳優としてだけではなく、声優としても劇場アニメ「すずめの戸締まり」でクールな宗像草太役を務め、声だけの演技でも申し分ない実力を持っていることを示した。

そんな松村だが、代表作には2024年に公開されたばかりの「夜明けのすべて」を推したい。同作品は瀬尾まいこによる同名小説が原作となっており、三宅唱監督がメガホンをとって映画化された。

物語の主人公はPMS(月経前症候群)で月に一度イライラが抑えられなくなる藤沢(上白石萌音)と、パニック障害を抱える山添(松村北斗)。藤沢が山添の小さな行動に怒りを爆発させるが、それが2人が歩み寄っていくきっかけとなる。周囲の人の理解にも支えられ、物語は淡々と、かつ温かく進んでいく。

■「劇的なことは何も起こらない」119分間

上映時間119分間の間になにか劇的なことが起こることはない。2人の距離は確かに縮まるが、恋仲になることはないし、映画として「面白い」という評価が正しいのかどうかさえ定かではない。それでも、こんなに優しい世界だったらどれだけ多くの人が救われるだろうと、世界について考えるきっかけを与えてくれる作品だ。

パニック障害やPMSといったものは見てわかるものではないし、周囲からはなかなか理解を得ることは難しい。社会で生きる辛さや厳しさも作品には詰まっているのだが、寄り添いたいと強く感じさせてくれたのは2人の演技力の賜物だろう。

普段はキラキラとした表舞台で輝く松村だが、山添に関してはそうしたきらめきを一切排除しているように感じた。まるで街でその辺を歩いているような、もっと言えばすれ違っても気にもとめないような等身大の男性を演じる。中身に関しても少しとっつきづらいようなぶっきらぼうな言葉の発し方など、山添が無気力に生きている様子をあらゆる方法で表現する。

もちろん、山添はただネガティブなだけのキャラクターではない。自身がパニック障害だからこそ、「3回に一度くらいなら助けられる」とPMSについても理解をできるように努める姿勢を示す。PMSを発症してイライラのぶつけどころを探す藤沢に対し、「ちょっとしばらく一人で怒っててもらってもいいですか」と放った言葉は誰よりも理解にあふれているのではないだろうか。

最初は気難しい人間に見えた山添も藤沢との出会いを通して、少し優しい人間になっていく。終盤に山添が会社の同僚にたい焼きを差し入れするシーンがある。同僚は少し驚いたようにたい焼きを受け取りながら、山添は照れくさいような笑みを我慢する表情を浮かべる。説明やセリフなどで明確に示されるわけではないが、表情だけで松村は山添の成長を表現したようで見事だった。

■恋愛関係とならないありがたみ

「カムカムエヴリバディ」では夫婦役を演じた松村と上白石だが、前述したように「夜明けのすべて」で恋愛関係となることはない。

多くのフィクション作品では、男女の距離が縮まるイコール恋人となってしまうことは否定できない事実だ。だが、現実としてそこかしこに恋愛が生まれるわけではない。互いの対象年齢が適正であり、好みが合致するのは奇跡のようなもので、だからこそ現代ではマッチングアプリが流行っている。安易に山添と藤沢をくっつけないことで、世界のリアルと、同時にただ信頼し合うことの尊さを教えてくれている気がした。

映画を見終わったとき、少しだけ周りの人に優しくなれる。そんな温かさを、松村と上白石は等身大のキャラクターを通して示す、傑作となっている。

文=まっつ

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映画情報

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