社会派エンタテインメントで知られる人気作家・佐々木譲は、冒険小説や歴史小説でも数多くの傑作を残しているが、中でも「警官の血」や「道警シリーズ」など警察小説の名手として名を馳せている。またドラマ化作品も数多く、そのひとつが2015年に放送された「警視庁特命刑事☆二人~代官山コールドケース~」(テレビ東京系)だ。松重豊が主演を務め、過去の事件で捜査一課を追われた刑事と、その相棒となる女刑事が未解決事件を解決する物語である。
松重扮する水戸部裕は、警視庁捜査一課の刑事として活躍していたが、ある事件で指揮系統を乱したことを理由に所轄署へと左遷され、不本意なデスクワークをこなす日々...。そしてある日、警視庁捜査一課の山岸亘課長(宅麻伸)に呼び出され、"鉄の女"と呼ばれる朝香千津子(山本未來)とコンビを組んで、20年前にカフェ店員・中牧みちる(小野しおり)が代官山で扼殺された未解決事件の極秘捜査を命じられる。
この事件では現場に残されたDNAから恋人で駆け出しのカメラマン・風見陽平(水間ロン)が浮上したが、逮捕寸前に風見は多摩川で水死体となって発見され、捜査が終わっていたのだ。ところが、別の事件で横浜の看護師・炭谷真紀(伊藤しほ乃)殺害事件の現場で採取されたDNAが、代官山の事件のDNAの1つと一致。横浜の殺人と20年前の代官山の事件が同一犯の犯行なら、警察の大失態となる。警視庁としてのメンツを重んじる山岸は、神奈川県警より先に、しかも秘密裡に真相を究明したいと考えたのだ。
その後、神奈川県警の捜査本部トップが森末哲平刑事部長(益岡徹)だとわかる。水戸部とは過去に因縁があり、ある立てこもり事件で森末の指示によって、水戸部の同僚が銃で撃たれ殉職した。その一件こそ、水戸部が左遷される原因となった事件だったのだ。
捜査を進める水戸部と朝香の前に、みちるのアパートを管理していた不動産会社・倉橋エステート社長の倉橋篤志(阿南健治)や同社社員で第一発見者の三ツ谷優(稲荷卓央)、みちるの勤務先のカフェオーナー・篠原大輔(渋川清彦)など、様々な人物が登場して複雑な展開を見せていく。そんな中、20年前の事件を担当していた警視庁庶務係・時田悟(モト冬樹)が現れて当時の捜査ノートを渡し、一気に捜査が動く...。
緊迫したストーリーが着々と動く本作は、佐々木譲原作らしい、ハードボイルドなタッチで、まさに一級のエンタテインメントと呼ぶにふさわしい。なんといっても、その中心を担う松重豊の重厚な演技が素晴らしい。同局のドラマ「孤独のグルメ」が代表作で、コミカルな味わいに定評がある松重だが、本作のような重厚な役柄もお手のもの。水戸部はまさに敵役という印象で、クールで無骨な陰のある役どころを巧みに演じている。
相棒役である朝香千鶴子警部補を演じる山本未来も、松重との息がぴったりで、一癖ある"鉄の女"をうまく表現している。朝香の渋めの役どころも、原作のイメージに忠実なキャスティングだと思わせ、好感を持てる。
松重は、2020年に初の短編小説「愚者譫言(ぐしゃのうわごと)」を上梓し、YouTubeチャンネルを開設するなど、本業以外でも精力的に活動。2025年1月には劇場版「孤独のグルメ」の公開も控えており、さらなる活躍が期待されている。「警視庁特命刑事☆二人~代官山コールドケース~」は、松重の演技力の奥行きを示す見ごたえ抜群のドラマであり、その後、2017年には第2作「警視庁特命刑事☆二人2〜新宿・荒木町コールドケース〜」が放送された。
2作で終わってしまうのが惜しまれる作品で、もう少しみたかったと思う視聴者も多いはずだ。今回の放送でその魅力と、原作の佐々木譲が描く独特な世界観との相性の良さを、じっくり味わってほしい。
文=渡邊敏樹
放送情報【スカパー!】
佐々木譲サスペンス 警視庁特命刑事☆二人~代官山コールドケース~
放送日時:9月8日(日)11:30~ほか
放送チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら