花組・明日海りおがゆるい愛されキャラを演じた「ハンナのお花屋さん -Hanna's Florist-」

「ハンナのお花屋さん」は、まさに主演の明日海りおにぴったりの作品だった。主人公のクリス・ヨハンソンはデンマークの名家出身でありながらロンドンで花屋を開業、才能豊かなフラワーアーティストだが、ちょっとヌケたところもある愛されキャラである。それはトップスターという重責を果たしながらも常にほんわかとした空気を漂わせ、花が大好きという明日海そのものであった。

1幕の舞台はロンドンのクリスの店「Hanna's Florist」が舞台だ。花々がいっぱいに飾られ、ナチュラルテイストでまとめられた店内は心安らぐ空間で、素敵なカフェもある。ここで働く店員たちがじつに多彩だ。

しっかり者でリーダー格のライアン(綺城ひか理)はアイルランド出身。いつも陽気でやんちゃなヤニス(飛龍つかさ)はギリシャ出身。爽やかな体育会系のヨージェフ(帆純まひろ)はハンガリー出身。ウェブ担当でエストニア出身のトーマス(優波慧)は物語の進行役も兼ね、店の出来事をテンポ良く紹介していく。そして、バレリーナになりたいという夢を打ち砕かれた過去を持つアナベル(音くり寿)。
 
皆、さまざまな国からさまざまな思いを抱えながらやってきて、この店で頑張っている。傍には頼れる相棒としてクリスを支える、切れ者のジェフ(瀬戸かずや)がいる。
 
ある日、老舗百貨店の事業開拓企画部長のエディントン氏(羽立光来)の一行が店を訪れ、百貨店に出店しないかと誘う。果たしてクリスはこの申し出を受けるのか? 

そして、クリスが出会う運命の女性・ミア(仙名彩世)。内戦で荒廃したクロアチアからロンドンにやってきた女性で、心に深い傷を抱えている。タカラヅカのトップ娘役らしからぬ役どころを、仙名がリアルに演じてみせる。
 
やがてクリスの父・アベルの訃報が届き、2幕では一転して舞台はクリスの故郷・デンマークへ移る。そして、クリスの過去とともに、なぜ「ハンナのお花屋さん」なのかの謎が解き明かされていく。

ここで登場するのが、若かりし日のクリスの父・アベル(芹香斗亜)である。真面目で誠実な雰囲気と、ヨハンソン家の御曹司らしい品の良さを漂わせる。アベルは森に住まい、花を売りながら暮らしている妖精のような少女ハンナと恋に落ちる。本作は、現在星組トップ娘役である舞空瞳がタイトルロールでもあるハンナを演じ、一躍脚光を浴びた作品でもある。

クリスは過去と向き合う中で、次第に「心の声」に耳を傾けることの大切さを学んでいく。クリスの故郷デンマークは「世界一幸せな国」なのだそうだが、この作品は、ほんとうの幸せとは何かをクリスとともに見つけていく物語でもある。
 
美しい花に囲まれた空間で物語は進むが、この作品は同時に内戦や移民問題にも触れている。今の時代の私たちが望むべき「幸せ」が、こだわりの舞台装置、音楽、振付とともに繊細に描かれていく。そして、観た後は不思議と穏やかな気分になれる。まさに癒し系ミュージカルである。

文=中本千晶

この記事の全ての画像を見る

放送情報【スカパー!】

ハンナのお花屋さん -Hanna’s Florist-('17年花組・TBS赤坂ACTシアター)
放送日時:11月8日(金)00:00~ 
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくはこちら

キャンペーンバナー

関連記事

記事の画像

記事に関するワード