新トップスター・永久輝せあが新たな演技を引き出した作品「激情」

2023年の花組全国ツアー「激情」−ホセとカルメン−は、プロスペル・メリメの原作「カルメン」をモチーフとした作品だが、タカラヅカ版ではカルメンに心奪われ、その愛を我が物にしたいがために次々と人を殺め、堕ちていく男、ドン・ホセに焦点を当てて描かれる。

1999年に宙組にて姿月あさと・花總まりのコンビで初演。好評を博し、その後、2010年星組にて柚希礼音・夢咲ねね、2016年月組にて珠城りょう・愛希れいかが演じてきた。

3度目の再演となる今回、一筋縄ではいかないドン・ホセ役に挑んだのは、2024年に柚香光の後を受けて花組の新トップスターに就任した永久輝せあ。タカラヅカスター王道の華やかさを身にまといつつ、「義経妖狐夢幻桜」のヨリトモや「冬霞の巴里」のオクターヴといった一癖ある役も印象深い男役スターである。

そして今回も永久輝らしいドン・ホセであった。一見、生真面目で誠実な「普通の青年」だが、時折垣間見える狂気にヒヤリとする。「一見普通」ゆえに、あの狂気は誰にでも潜んでいるのかもしれないと思わせる。ゆえに、運命の落とし穴に引き込まれていくさまがとても切ない。

カルメンを演じるのは、永久輝と共に花組の新トップ娘役となった星空美咲。入団5年目(当時)でありながら、自由奔放に生きる女性カルメンをダイナミックに演じてみせる。「銀ちゃんの恋」の小夏や「冬霞の巴里」のアンブルなど、学年からすると難易度が高いと思われる役を次々と演じ切ってきた星空だが、この役でまた一つ引き出しを増やすこととなったようだ。

本作では原作者であるプロスペル・メリメも登場し、ホセと対話しながら物語が進んでいくが、専科より出演の凪七瑠海が演じるメリメと永久輝のホセとのコンビネーションもいい。メリメが生み出した虚像であるはずのホセが次第に実像として息づき、逆にメリメの方がホセに翻弄されていくさまが伝わってくる。

凪七はメリメの他、ロマの首領である大悪党ガルシアも演じる。ホセの創造者であるメリメと、ホセと真っ向から敵対するガルシアを同じ役者が演じる趣向も興味深い。

綺城ひか理演じるエスカミリオは長身に闘牛服が良く似合い、圧倒的なスターオーラを醸し出す。運命の女神は常に自分の味方であると確信している男にしか出せない「陽」の存在感で、「陰」のホセに対峙してみせる。

ホセを信じ続ける婚約者ミカエラ(咲乃深音)のブレない気高さ、ホセの上官、スニーガ中尉(紫門ゆりや)の酸いも甘いも噛み分けた食えない男ぶり、また、一瞬の登場ではあるが、ロマと通じる花売り娘ベニータ(七彩はづき)の小狡い茶目っ気も目を引いた。

ロマの人々が、街の住人たちとの喧嘩の場面で発する激しいエネルギーに圧倒される。ホセとカルメンが残酷な運命に弄ばれていく様が、この作品を織りなす縦糸だとすれば、その運命を巧みに受け流していくロマのしたたかな生き様が横糸である。

タイトルの通りホセやカルメン、そしてロマたちの「激情」が渦巻き続ける作品である。

文=中本千晶

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放送情報【スカパー!】

激情(’23年花組・全国)
放送日時:1月2日(木)21:00~ ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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