
昨年11月に公開され、盟友でもある池松壮亮を主演に迎えた映画「本心」も大きな話題を呼ぶなど、現代日本を代表する監督として、真っ先に思い出すような存在となった石井裕也監督。心の奥底にある感情までを引っ張り出すような演出は役者からの信頼も厚く、今を生きる人が感じている不安や恐れから目を逸らさずに果敢に映画作りに挑む姿勢が、多くの観客を魅了している。
そんな石井監督の代表作として数々の映画賞を席巻したのが、2月16日(日)にWOWOWシネマにて放送される「月」(2023年)だ。2016年、神奈川県相模原市にある知的障害者施設で、同施設の元職員が入所者19人を殺害するという衝撃的事件が発生。世間を震撼させたこの未曽有の事件を題材に、辺見庸が翌年に発表した同名小説が原作だ。
「新聞記者」(2019年)や「空白」(2021年)を手掛けてきた、映画製作・配給を行うスターサンズの故・河村光庸プロデューサーが最も挑戦したかった原作だったそうで、オファーを受けた石井監督は「撮らなければならない映画だと覚悟を決めた」という。

(C)2023「月」製作委員会
深い森の奥にある重度障害者施設で新しく働くことになった堂島洋子(宮沢りえ)は、"書けなくなった"元・有名作家。彼女を「師匠」と呼ぶ夫の昌平(オダギリジョー)と2人で慎ましい暮らしを営んでいる。洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにするが、それを訴えても聞き入れてはもらえない。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくん(磯村勇斗)だった。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげていく。
冒頭から、笑顔を見せながらもどこか苦悩をにじませている洋子の表情に釘付けになる。宮沢は、常に呼吸が浅く、息がしづらいようにも見えるなど、身体中で洋子の葛藤を体現している。一方の夫・昌平も極めて明るく振る舞う姿に、ふと寂しげで虚ろな目をする瞬間があり、朗らかな佇まいの中にしまい込んだ悲しみを見事に表現している。
観客は「一体この夫婦に何があったのか?」という疑問を携えると共に、洋子が働き始める障害者施設に一緒に足を踏み入れるようにしてその様子を知っていくことになり、あっという間に映画に飲み込まれていくことになる。
放送情報【スカパー!】
月(2023)
放送日時:2025年2月16日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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