
俳優業はもちろん生活情報番組やバラエティ番組のMC、ナレーターまで多方面で活躍する小泉孝太郎。年齢を重ねても変わらぬ爽やかな笑顔、誠実さを滲ませる品の良さや優しく穏やかな人柄も相まって、どの年代にも高い好感を抱かせる、"永遠の好青年"とも言うべき稀有な存在だ。
4月11日からは町田啓太とW主演を務めるドラマ「失踪人捜索班 消えた真実」も放送開始。俳優デビューから20年以上経った現在まで着実にキャリアを重ね、刑事や医者役などのイメージも強い小泉だが、近年で異色の役柄を演じた作品が「愛に乱暴」(2024年)だ。
4月26日(土)にWOWOWシネマで放送される本作は、「悪人」「怒り」など数多くのベストセラー小説を世に送り出してきた吉田修一の同名小説を映画化したヒューマンサスペンス。CMディレクターとして国内外の広告賞を席巻し、「おじいちゃん、死んじゃったって。」(2017年)で長編映画デビューした森ガキ侑大が監督を務めた。カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭のコンペティション部門にも選出され、各国の映画祭に招聘されるなど世界でも高い評価を得ている。

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024 「愛に乱暴」製作委員会
夫の実家の敷地内にある"はなれ"で暮らす桃子は、結婚して8年になる。義母から受ける微量のストレスや夫の無関心を紛らわすように、センスのある装いや手の込んだ献立など"丁寧な暮らし"に勤しんで日々を充実させていた。そんな中、近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火をはじめ、彼女の周囲で不穏な出来事が起こり始める。平穏だったはずの日常は少しずつ乱れ始め、恐れていた事態が訪れる...。
主人公の桃子を演じたのは江口のりこ。「時効警察」や「ソロ活女子のススメ」などの人気シリーズでも確かな演技力で個性を発揮してきた。2025年前期の連続テレビ小説「あんぱん」にもヒロインの母親役で出演、舞台に映画と今年も各方面からのオファーが絶えない。
桃子は一見どこにでもいる普通の主婦。しかし、江口が演じるからには単なる普通の人のはずがない。どこか怪しく何かが起こりそうな空気を纏いつつ、手慣れた様子で家事をこなす。日々の生活の中で感じる小さな痛み、苛立ちや不安が少しずつ蓄積する様を自然体で魅せ、追い詰められる中で次第に平穏を失って暴走していく姿を怪演した。

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024 「愛に乱暴」製作委員会
そんな主人公を取り巻くキャストにも、小泉をはじめ実力派が揃う。風吹ジュンが演じる義理の母親は、絶妙な距離感で嫌な雰囲気を作り出し、桃子に微量なストレスを与える。夫の愛人役の馬場ふみかも守ってあげたくなる女を体現し、その存在そのものが桃子を追い詰めていく。
そして、桃子と家庭生活を送りながらも心は常にどこか違う場所にある夫・真守を、小泉が翳りのある演技で表現。暗く陰鬱な表情で、トレードマークのような爽やかな笑顔も一切なく、妻には無関心で話を聞きもしない。何を考えているのか感情が分からず、桃子に感謝もない自己中心的で嫌な男だ。若い女と不倫して自分勝手な言動で桃子を傷つけるという、パブリックイメージとは正反対の最低な男を見事に演じ切った。
行き過ぎた愛は時に暴力的な側面を孕む。森ガキ監督は、ある仕掛けから映像化は難しいと言われていた原作を繊細かつ大胆にアレンジ。江口や小泉らの緊迫感のある熱演を引き出した。独特の演出とカメラワークで、壊れていくヒロインの日常をサスペンスフルに映し出している。
文=中川菜都美
放送情報【スカパー!】
愛に乱暴
放送日時:2025年4月26日(土)22:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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