「あんぱん」でも確かな実力を証明!河合優実が売春や麻薬に依存する主人公を体当たりで演じた映画「あんのこと」

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「あんのこと」 (C)2023「あんのこと」製作委員会
「あんのこと」 (C)2023「あんのこと」製作委員会

現在放送中の連続テレビ小説「あんぱん」には、朝ドラヒロインらしい明るく溌剌とした主人公・のぶを演じる今田美桜を筆頭に豪華キャストが多数出演している。若手キャストの中でも特に注目されているのが、のぶの妹・蘭子を演じる河合優実だ。

思い人と心を通わせる場面や彼の戦死に慟哭する姿は、今期朝ドラ屈指の名シーンと話題になった。お茶の間の認知度をさらに高めており、第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰を受賞した「PLAN 75」(2022年)を手掛けた早川千絵監督の最新作「ルノワール」(2025年)にも前作に引き続きキャスティングされるなど、最近は河合の存在がより色濃くなっている。

若き演技派との呼び声も高い河合だが、昨年は大ヒットドラマ「不適切にもほどがある!」(2024年)で主人公の娘役を好演して注目を集め、飛躍の一年となった。この"ふてほど"でのブレイクに続き、印象的な演技を見せたのが、同年6月に公開された映画「あんのこと」(2024年)だ。

河合優実が幼い頃から虐待されてきた主人公を演じる映画「あんのこと」
河合優実が幼い頃から虐待されてきた主人公を演じる映画「あんのこと」

(C)2023「あんのこと」製作委員会

7月6日(日)にWOWOWシネマで放送される本作は、2020年の日本で実際に起きた事件をモチーフに、「SRサイタマノラッパー」シリーズなどで知られる入江悠監督が映画化した社会派ドラマ。

河合が演じたのは、底辺から抜け出そうともがく21歳の主人公・香川杏。ホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らす彼女は、幼い頃から酔った母親に殴られて育ち、小学4年生で不登校に。日常的に虐待を受けて中学校にも通えず、10代半ばには売春を強要され、薬物に依存するようになっていた。

この現実を絶望とさえ気づけない杏。売春と薬物の常習犯である彼女は、警察の取り調べを受けた際に風変わりな刑事・多々羅と出会う。薬物更生者の自助グループを紹介してもらい、就職支援やDV被害者用の避難住居の斡旋も受けて、次第に心を開いていく。多々羅の友人で週刊誌記者の桐野も彼女を気にかけていたが、新型コロナウイルスがその行く手を阻む...。

実際の出来事とは思えないほど、あまりにも過酷で壮絶な人生を送っている杏。生半可な気持ちでは出来ない、相当の覚悟が必要な役どころだ。伏目がちな空虚な瞳、あどけない話し方、大人を疑う鋭い視線は、彼女の生きてきた道を想像させる。

見返りも求めず彼女を救おうする多々羅と出会い、暗い生活や瞳に少しずつ希望の光が差し込んでくる。引き戻されそうになるたびに葛藤し、もがき苦しみ、子どものように泣き崩れる。年齢よりも幼く見える可愛らしい笑みや平仮名ばかりの日記を嬉しそうに書く横顔、自身の半生を打ち明ける姿...。小さな心の変化も、河合が仕草や声で細やかに体現し、広がっていく明るい世界をその瞳に映す。

しかし、そんな社会とのつながりも居場所すらもコロナ禍によって奪われていく。ささやかな希望からの容赦ない絶望。その目から光が失われるのを直視するのが辛くなる。それでも彼女の壮絶な生き様を静かに、熱く真摯に訴えかけてくる河合から目が離せない。新聞の小さな三面記事に載っていた少女が、杏として生き返っているかのように生々しくリアルだ。

本作で、第48回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞や第34回日本映画批評家大賞主演⼥優賞をはじめ、多数の賞を総なめにした。もしかしたら、彼女のような人が隣にいたかも、今もどこかにいるかもしれない...そんな想像力を、河合の熱演が掻き立てる。あんという少女が確かにあの時ここ日本で生きていたことを、証明してくれた。

文=中川菜都美

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放送情報【スカパー!】

あんのこと
放送日時:2025年7月6日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくは
こちら

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