星組・新トップスター暁千星が2面性のある演技を見せた「夜明けの光芒」('24年星組・ドラマシティ・千秋楽)
俳優
ディケンズの長編小説「大いなる遺産」を舞台化した「夜明けの光芒」がタカラヅカ・スカイ・ステージにて放映中だ。小説「大いなる遺産」は1990年に月組で舞台化したことがあるが、今回は脚本・演出を鈴木圭が担当し、新たな切り口でこの名作を紐解いてみせる。
孤児として生まれ育ち、将来は鍛冶屋になることを運命づけられた少年ピップは、美しくも高慢な少女エステラに心奪われ、いつか彼女に相応しい紳士になりたいと夢見ている。ところがある日、ピップに莫大な財産を相続したいという人物が現れる。ただし、その人物が誰かを決して聞いてはならないという条件がついていた。
「紳士になる」という夢を叶えるべく、意気揚々とロンドンに向かったピップだが、金に糸目をつけず贅沢な生活を送りギャンブルにまで手を染めてしまう。やがて、その「大いなる遺産」がとんでもない人物からのものであったことが判明する...。
数奇な運命に弄ばれていくピップを演じるのは、このたび星組の新トップスターとなった暁千星。持ち前の明るさの上に人間らしい弱さと強さを重ねた役作りで好演した。本作の注目はピップの心の中の葛藤を「光と闇」の対決で見せるという趣向だが、一度は闇に堕ちるが最終的には打ち勝つ過程を暁は丁寧に掘り下げてみせる。
瑠璃花夏演じるエステラはドレス姿も艶やかで、まさに咲き誇る一輪の花のような美しさ。氷のように冷たい心のうちに、ほんのりと内面の揺らぎを滲ませ、彼女もまた光と闇との間で葛藤し続けていることを感じさせる。
素直で心優しい少年ピップ(藍羽ひより)、硬く閉じた蕾のような少女エステラ(乙華菜乃)が、大人になった二人の原点のような存在だ。
天飛華音演じる「闇」は原作には登場しないオリジナルキャラクターである。ある時はピップの恋敵ドラムルに乗り移って、またある時は「闇」そのものとして、ピップを甘く誘惑したかと思えば冷たく突き放し、翻弄する。時折登場する「闇」のダンサーたちが、ピップの心のダークサイドを妖しく表現する。
原作の持つミステリアスな謎解き要素も忠実に描いている。風貌からして不可思議な婦人ミス・ハヴィシャム(七星美妃)と「大いなる遺産」の鍵を握る男エイベル・マグウィッチ(輝咲玲央)が怪演だ。もう一つの秘密の鍵を握る女中モリー(紫りら)も不気味な存在感を醸し出す。
ロンドンでピップの親友となるハーバート(稀惺かずと)の天真爛漫な明るさ。故郷からピップのことを案じ続けるジョー(美稀千種)とビディ(綾音美蘭)の無私の慈愛。小説では冷徹な弁護士として描かれるジャガーズ(朝水りょう)もさりげない人情味を感じさせ、ピップに冷たく当たる姉ジョージアナ(澪乃桜季)にも優しさがある。
フィナーレでは暁のダンスの魅力がたっぷり味わえる。ピップとエステラの幸せなデュエットダンスに続き、「闇」たちのクールなダンス。そこから一転、光輝く世界で伸びやかに踊るピップの姿には、心が浄化されていくような清々しさを覚える。
波乱万丈の物語をスピーディーに展開させ、文庫本にして2冊分の長編を2時間で見せる。作品全体を貫く性善説的な温かさが心地良い舞台である。
文=中本千晶
放送情報
夜明けの光芒(’24年星組・ドラマシティ・千秋楽)
放送日時:2025年10月30日(木)9:00~、11月26日(水)19:00~
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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