2014年から始まった天海祐希が主演を務めるドラマ、通称"キントリ"こと「緊急取調室」。叩き上げの取調官・真壁有希子が、チームのメンバーとともに特別取調室で被疑者との心理戦を繰り広げる人気シリーズだ。
今年10月からは第5シーズンが放送され、12月26日(金)には12年にわたるシリーズ完結編となる劇場版「緊急取調室 THE FINAL」の公開が控えている。頭脳と話術を駆使してベテラン男性取調官や犯人と渡り合う、上にも下にも媚びない優秀な刑事・真壁は、天海のハマり役だ。
田中哲司演じる梶山管理官との夫婦漫才のような軽快なやり取り、人とのつながりが丁寧に描かれる人間ドラマも高い支持を集めた。ドラマさながらに一丸となって苦楽を共にしてきたキャスト陣が強い絆で結ばれていることも、人気の一因だろう。
美貌やスタイルの良さに圧倒的な華がありながら、驕らず真っ直ぐで凛とした生き方に憧れを抱かせる天海。演じる役柄からも、かっこいいキャリアウーマンや理想の上司という印象が強い。そんな天海がこれまでのイメージとはまったく異なる、ごく普通の主婦を好演した映画が「恋妻家宮本」(2017年)だ。
(C)2017「恋妻家宮本」製作委員会
12月5日(金)にWOWOWシネマで放送される本作は、「女王の教室」(2005年)や「家政婦のミタ」(2011年)など数々のヒット作を手掛けた脚本家・遊川和彦が初監督を務めたコメディ。人気作家・重松清の小説「ファミレス」を原作に、一人息子が家を出たことで50歳になって2人だけの生活をすることになった夫婦の機微を描く。
主演に阿部寛、その妻役に天海と、高身長で美男美女のスター俳優が演じる夫婦による華麗なる一家の物語かと思いきや、そうはいかないのが遊川作品。リアルさの中にユーモアと悲哀を織り交ぜ、生きた人間くさい姿が、時にコミカルに人情味たっぷりに映し出される。
中学教師の宮本陽平と妻・美代子は、学生時代に知り合って卒業と同時に結婚して以来27年も連れ添ってきた、どこにでもいる平凡な夫婦だ。一人息子が結婚して福島へ転勤することになり、子育ても一区切りと安堵するが、およそ25年ぶりとなる夫婦だけの生活に困惑してしまう。
ある夜、本棚を物色していた陽平は、若き日に妻に貸した本を見つけて懐かしさから手を伸ばす。すると、ページの間から美代子が捺印を済ませた離婚届が見つかり...。
「女王の教室」をはじめ遊川作品への出演も多い天海。4度目のタッグとなる今作では、彼女のイメージとは対極にある存在とも言える専業主婦の美代子にキャスティングされた。主人公・陽平の妻である美代子は、ファミレスのメニューさえなかなか決められない優柔不断で頼りない夫をやや尻に敷きながら、妻として母として家庭をずっと支えてきた。
料理を作る慣れた手つきと少し疲れた背中に、主婦業を長年務めてきた自負と生活感を滲ませ、酔い潰れた寝顔を見た夫に「老けた」などと呟かれる。気が強くさっぱりした性格だが、互いに名前で呼ぶことを提案したり、料理教室に通う夫の友人関係にヤキモチを妬いてみたり、可愛らしい一面も。
心の奥にしまってきた不安や寂しさを素直に口に出せない美代子のいじらしさも、天海が細やかに表現。その不器用な姿に親近感を湧いてくる。人となりを知るからこその、気さくで飾らない人柄にマッチする天海らしい主婦像が構築されていた。
また、夫・陽平役の阿部も、自分の選択に迷いながら生きる平凡な男を自然体で演じる。教師であっても「ドラゴン桜」シリーズの桜木のように生徒たちを東大合格に導く熱さもなく、「TRICK」シリーズの自称天才物理学者・上田とは違って変わり者でもない。大きな体躯に似合わぬ気弱さと考えすぎる癖はあるが、優しさも家族への愛も持ち合わせる。
妻や仕事のことで思い悩みながらも、懸命に生きている。かっこ悪くて情けないところもかえって愛らしい、ごく普通の中年男性を好演した。
50代を迎えた夫婦のリアルな生活を、天海と阿部が絶妙なコンビネーションで体現した本作。息の合った掛け合いは、長い年月を共に過ごしてきた絆を感じさせる。2人はその演技力をもって、親しみやすさのある市井の人になりきり、自然と日常に溶け込む。
「あるある」と思わず共感してしまう夫婦の姿に笑い、言えずにいた本音をぶつけ合う様にじんわりと胸が温かくなる「恋妻家宮本」。製作陣のこだわりと遊び心が詰まっていたエンドロールまで、余すところなく楽しんでほしい。
文=中川菜都美
放送情報
恋妻家宮本
放送日時:2025年12月5日(金)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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