内藤剛志の"親しみやすさ"・"演技力"の両方が味わえる!新人刑事役・佐野岳との掛け合いも必見「今野敏サスペンス 聖域 警視庁強行犯係 樋口顕」

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「今野敏サスペンス 聖域 警視庁強行犯係 樋口顕」で樋口顕を演じる内藤剛志(写真右)
「今野敏サスペンス 聖域 警視庁強行犯係 樋口顕」で樋口顕を演じる内藤剛志(写真右)

刑事がもっとも似合う俳優と呼ばれ、「科捜研の女」や「警視庁・捜査一課長」など数々の人気ドラマで刑事を演じている内藤剛志。警察小説の第一人者、今野敏の人気小説をドラマ化した「今野敏サスペンス 警視庁強行犯係 樋口顕」シリーズは、2時間枠の単発ドラマの他、1時間枠の連続ドラマ化もされた人気作だ。2003年に第1作が放映された本シリーズは内藤のキャリアの中でも特出した長寿作で、本作は2019年に放映された7作目の単発ドラマである。

内藤演じる樋口は、警視庁捜査一課強行犯第三係一班のベテラン刑事。今作は少年院に送致中だった17歳の原田達也(葵揚)が脱走し、その直後に起きた主婦殺人事件に立ち向かう。社会派色の強い本シリーズの樋口の持ち味は、こつこつと手がかりを積み上げていく地道な捜査術。

本作でも樋口は脱走した少年=犯人説にはとらわれず、主婦の関係者を粘り強く調べていく。所轄の見立てや加熱する報道に動じることなく、ニュートラルな姿勢を崩さず、自らのスタイルを貫く樋口のキャラクターは、まさに"ミスター刑事ドラマ"内藤の真骨頂といえる。

■樋口の家庭・職場での苦労も内藤は人間味たっぷりに演じる

本シリーズは、樋口の家庭内の描写が占める役割も大きい。今作では非番の日に有給休暇をとり昼まで寝ていた娘・照美(逢沢りな)と鉢合わせ、"休暇"をめぐって言い争いを繰り広げ、出かけた妻・恵子(川上麻衣子)の代わりに洗濯物を取り込んでいたら娘から「下着に触るな」とたしなめられる一幕も。職場では捜査の進展をめぐり、部下をかばって上司である天童管理官(榎木孝明)から叱責を受けるなど、年頃の娘を持つ父や組織における中間管理職の苦労もにじませている。

天童の甥である新人刑事・菊池和馬(佐野岳)が樋口の班に配属になるのも本作の見どころ。菊池はいわゆる"今どきの若者"で空気を読まない言動で班内をざわつかせるが、樋口は彼に捜査のイロハをわかりやすく伝授。しだいにコツを身につけた菊池が、やがて関係者から重要な証言を引き出していく様も描かれる。内藤の演じてきた刑事は強面、剛腕のイメージがあるが、本作では気配り上手な一面も盛り込まれ、他の作品にはない細やかな芝居が味わえるのもポイントだ。

■やはりベテラン。内藤の重みある演技にも注目

未成年の少年を軸に展開する今作は、樋口の親友である生活安全部少年事件課の氏家(佐野史郎)や、かつて通り魔事件で夫を亡くした新聞記者・遠藤(矢田亜希子)の存在もクローズアップされている。原田の更生を重視する氏家に対し、凶悪な罪を犯したとしても守られる少年法のあり方を問題視する菊池が対立。樋口たちに張り付いていた彼女はやがて原田逮捕の瞬間を顔写真入りでスクープするが、その記事が新たな犯行の呼び水になってしまう。反省どころか警察の隠ぺい体質を責める遠藤に樋口が事件を扱うことの危うさを説くシーンでは、静かな中に重みのある語り口を披露。ベテランならではの説得力に圧倒された。

人にとって侵すことのできない聖域とは何かを問う本作は、意外な真実へとたどり着くドラマの面白さはもちろん、等身大の刑事・樋口の持ち味が生きた作品でもある。

文=神武団四郎

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