星組前トップスター・礼真琴が新たな演技を見せた作品「記憶にございません!」('24年星組・東京・千秋楽)

俳優

三谷幸喜脚本・監督による映画の舞台化で話題を呼んだ「記憶にございません!」がいよいよタカラヅカ・スカイ・ステージにも登場、視聴者を大いに笑わせてくれる。潤色・上演台本・演出を石田昌也が担当している。

物語は、史上最低の支持率を叩き出している総理大臣・黒田啓介がある日、頭に石をぶつけられて記憶を失ってしまうところから始まる。啓介は政治家として、夫として父親としてゼロからやり直すことを決意し、行動し始める。
 
基本的に映画に忠実な展開であり、扮装、小ネタなども再現されている。いっぽうで、ご当地アイドルグループ「田原坂46」の登場や啓介の回想シーンなど、タカラヅカ独自の脚色・演出も見どころだ。閣僚たちがダンディに歌い踊る「献金マンボ」はタカラヅカ史上に残る名曲になるかもしれない。

星組前トップスター・礼真琴が、主人公・黒田啓介を飄々と演じてみせる。情熱的な役が多かった礼だが、本作では新たな一面が新鮮だ。記憶を失う前の最悪ぶりや若き日の学ラン姿まで、いろいろな顔も見せてくれる。

啓介の妻・聡子に前トップ娘役の舞空瞳。秘書官の井坂との不倫疑惑あり?という役どころだが、オーバーアクションで笑わせ、良い意味でリアリティを感じさせない。啓介との結末はタカラヅカらしく味付けされ、ときめきの大団円は本作で卒業となった舞空へのはなむけでもあるようだ。
 
記憶をなくした総理を冷静かつ的確な対応でフォローする秘書官の井坂を演じるのが、このたび星組の新トップスターとなった暁千星だ。心の奥底に秘める野心との葛藤を丁寧に表現してみせる。

最初は啓介に呆れていたが次第に良き理解者となっていく番場のぞみに、新トップ娘役の詩ちづる。何も考えていなさそうだが一挙一動から不思議と目が離せない野々宮万作に天飛華音。秘書官チームは三者三様の持ち味で啓介を支える。

政界を牛耳るドン、官房長官の鶴丸大悟(輝月ゆうま)は柔和な笑顔の奥底にのぞく本音が怖い。金で転ぶフリーライター・古郡祐(極美慎)は、極美の陽の持ち味が、ペンの力を信じていた若き日を彷彿とさせる。啓介の好敵手・山西あかね(小桜ほのか)は、啓介との密かな関係を面白おかしく演じつつ、最後にはいいところも見せる。
 
アメリカ大統領のスーザン・セントジェームズ・ナリカワを演じる瑠璃花夏が丁々発止の大健闘。父に心を閉ざす息子の黒田篤彦に稀惺かずと、啓介のS Pに抜擢される警官の大関平太郎に大希颯と、期待の若手スターが美味しい役どころで注目を集める。

この他にも愉快なキャラクターは枚挙にいとまがない。啓介の義兄・鰐淵影虎(碧海さりお)は映画と同様に、突然ギターを抱えて登場する。小野田社長(ひろ香祐)のインパクトと、大工の南条(輝咲玲央)と松ジイ(天希ほまれ)の名コンビぶりは映画以上かもしれない。
 
半ズボン姿の森崎財務大臣(紘希柚葉)、福耳の牛尾外務大臣(鳳真斗愛)をはじめ、黒田内閣は癖の強い閣僚ぞろい。古賀(蒼舞咲歩)率いるSPの面々も気になる存在だ。恩師・柳先生(美稀千種)が啓介を教え導く場面の一曲は舞台ならではの見せ場だ。

「数ある三谷作品の中から何故これをタカラヅカで?」と最初は思ったが、爆笑コメディでありながらも、登場人物たちがそれぞれの愛と正義を真っ直ぐに貫く姿が描かれており、なるほどこれはタカラヅカにもぴったりな題材だと納得した。タカラヅカ・スカイ・ステージでの放映を機に改めて、映画との見比べを楽しむのもおすすめだ。

文=中本千晶

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