2019年7月から放送された上野樹里主演の「監察医 朝顔」が早くもフジテレビTWOで放送。月9枠でありながら、若い世代だけでなく全世代が楽しめるドラマとして好評だった本作の魅力を振り返ってみよう。
上野が演じる主人公の朝顔は若手の法医学者で、警察から依頼されて遺体を解剖する大学の法医学教室に勤めている。博識で優秀であり、教授の夏目(山口智子)からも期待されているが、実は東日本大震災のとき一緒に東北にいた母親(石田ひかり)が行方不明になって以来、心に傷を負っている。
そんな朝顔の父親である平(時任三郎)と恋人の桑原(風間俊介)は共に刑事で、なんと父の異動により同じ警察署の強行犯係に。そんなプライベートの事情もありつつ、朝顔は毎回、発見された遺体に「教えて下さい」と語りかけてから解剖し、その医学的な所見から死因の究明や犯人特定へとつなげていく。
法医学者や監察医を主人公にしたサスペンスは数多くあるが、このドラマがひと味違うのは、朝顔の日常生活をじっくりと描いているところ。母が行方不明になった後も、朝顔と父の平は古い木造一軒家でつつましく暮らす。
第6話からは桑原が朝顔と結婚して引っ越してきて、さらに娘も生まれて4人家族となり、にぎやかに食卓を囲むように。朝は全員分のお弁当を作ったり時間差で出かけたりし、慌ただしい。そんな暮らしぶりが丁寧に描かれるので、見ている私たちも自然に共感できるのだ。
朝顔の母、朝顔、そして朝顔の娘と女三代に続いていく朝ドラのような物語の流れもあり、法医学サスペンスとホームドラマをミックスした新しい作品でもある。そこに東日本大震災の悲劇というリアリティも加わり、朝顔ファミリーに心を寄せずにはいられない。
朝顔は震災から8年経った今でも、母と生き別れた土地まで行くと、足がすくんで動けなくなる。そして、結婚を決めたときには、母の写真を見ながら「喜んでくれると思うんだけど...」と言い涙を落とす。そんな決して簡単ではない心の回復の過程が胸に響く。
上野樹里で月9というと、大ヒットシリーズ「のだめカンタービレ」(フジテレビ系)でのコミカルな演技の印象がいまだに強いが、本作での上野は「グッド・ドクター」(フジテレビ系)で見せたような職業人としての強さに加え、心の傷を抱える繊細さもある難しい役を落ち着いたトーンで演じている。
上野を始めとするキャストが、演技巧者ぞろいであることもポイント。父親役の時任三郎、夫役の風間俊介はもちろん、夏目教授を演じる山口智子の気風の良い芝居や法医学教室の面々のやりとりも楽しい。警察署強行犯係の係長を演じた戸次重幸、若手刑事役の森本慎太郎(SixTONES)の好演も光る。そして、出番は少ないものの母親役の石田ひかりと祖父役の柄本明が確かな存在感を発揮し、全体を引き締めている。
「監察医 朝顔」は、ぶっ飛んだキャラクターや設定の派手さはないが、見ればすっと心に染み入る上質のヒューマンドラマだ。民放の連続ドラマでは、ほぼ初めて震災の瞬間を描き、その犠牲者と悲劇に向き合った制作陣の勇気にも拍手を送りたい。
文=小田慶子
放送情報
監察医 朝顔
放送日時:2019年11月18日(月)12:10~
チャンネル: フジテレビTWO ドラマ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
詳しくはこちら