2018年10月クール、ドラマファンの心をザワザワさせるドラマが放送された。「掟上今日子の備忘録」(日本テレビ系)の野木亜紀子が脚本を書き、新垣結衣と松田龍平が主演した「獣になれない私たち」(日本テレビ系)。
共演は田中圭と黒木華と菊地凛子。30代の男女が繰り広げる"ラブかもしれない"人間模様は、王道のラブストーリーやお仕事ドラマとは一線を画し、パターンにはまっていないがゆえに、先の予想がつかないとTwitterなどで話題になった。
主人公の晶(新垣)は、ワンマン社長が君臨する中小企業の営業事務だが、実態はコーヒーメーカーのセットからクライアントの接待、若手社員の教育、社長のスケジュール管理までやらされているブラック労働状態。だが、両親が毒親で実家に頼ることもできない晶は、会社を辞められない。
また、交際中の彼氏・京谷(田中)は一流企業のサラリーマンでマンション持ちとハイスペックなものの、なんとそのマンションには無職の元カノ・朱里(黒木)が4年間も居座っており、同居続行中だった。晶はもの分かりが良くて気配りもできるからこそ、社長からも彼氏からも都合の良いように扱われ、損をしている。そんなとき、なんの利害関係のない、行きつけのバーで会うだけの男・恒星(松田)が、彼女の心に「それでいいのか?」と問う石を投げかける。
新垣結衣は、これまで「掟上今日子の備忘録」などで見せてきたアイドル的なかわいらしさを封印し、野性的になれず理性で行動をコントロールした結果、疲弊する晶を"本当に居そうな女性"として演じている。
特に、社長や彼氏に暴言を吐かれたときに見せる諦念からの無表情や、仕事に追われながら脳内で「幸せなら手をたたこう」をリピートするときの動きは、怖いほど。その絶望は実際に多くの女性が味わってきたものでもあるから、共感を呼ぶ。
田中圭が演じた京谷は、かっこよくて人当たりも良いが、女性関係に難があるというどこの企業にもいる色男。元カノを追い出せないのは優しさからでもあるが、逆に晶に対しては誠実ではない。さらに、恒星の元カノである自由奔放な呉羽(菊地)とも寝てしまい...。
地上波放送時は、この場面で"ダメ男"認定した視聴者も多かった。そんな京谷も、田中が演じると、悪意のなさが見えて憎みきれない。田中はこの半年前、「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)でピュアさと優しさを前面に出しブレイクしたが、このドラマではさらに複雑な人間性を体現し、これまで培った演技力を遺憾なく発揮している。
京谷が元カノ以外の人とも関係し、これだけ裏切られたら晶はもう我満できないだろうとハラハラさせる後半の展開。晶は会社でも社長と対決し、もう我満の限界だという絶望的な状態に陥っていく。そんな彼女がどんな決断をするのかが最大の見どころだ。そして、税理士として後ろめたい秘密を抱える恒星も、晶の人生の選択肢に入ってくる。
劇中で晶たちが飲むさまざまなクラフトビールのように、人間もひとりひとり違う種類の弱さと強さを抱えていることを描くこのドラマ。12月29日(日)に日テレプラスで一挙放送されるので、地上波放送時に見た人も、未見の人も、その複雑だがしっかりとした味わいを確かめてみよう。
文=小田慶子
放送情報
獣になれない私たち
放送日時:2019年12月29日(日)18:35~
チャンネル:日テレプラス ドラマ・アニメ・音楽ライブ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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