NHK制作のドラマ「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」は、とある田舎町にゾンビが発生。国は事実を隠蔽し、町を封鎖。閉じ込められた女性3人とその恋人や家族が繰り広げる、うっかりちゃっかりサバイバル。絶体絶命のシチュエーションなのに、ゲラゲラ笑えて、何だかほっこり、ついでにちょっぴりしんみり。それぞれが抱える鬱屈や達観があぶり出されて、まさに「人生を見つめ直す」という物語である。
ただのゾンビもの、若者向けのパニックコメディーと侮るべからず。これは、思い通りにならない世の中で「生きる意味」を問い掛けてくる社会派ドラマだ。
主人公は無気力・無関心で、いつ死んでもいいと斜に構えるライター・みずほ(石橋菜津美)。東京へ出て、高校の先輩(大東駿介)と結婚したが、浮気されてリセットすべく帰郷した。親友の柚木(土村芳)は能天気で男性にだまされやすい。空気も漢字も読めないが、発言は真理を突く。そして田舎町でくすぶった揚げ句、大東と不倫をしていたのが事務員の美佐江(瀧内公美)。三者三様の人生観が、ゾンビに囲まれた絶望の中で変化を遂げていく。
最も笑えるのは、不倫がバレた時の大東の詭弁っぷり。その後、彼に起きる悲劇は切ないものの喜劇に転化。サバイバルするのはみずほの父(岩松了)と妹(片山友希)、柚木の彼氏(山口祥行)とその娘(根本真陽)のご一行。重要なのは初回でうっかりゾンビ化する渡辺大知(ちょっとカワイイ)。
この一行とは別に、こじらせユーチューバー(川島潤哉)と謎のピザ屋(阿部亮平)の暗躍も見どころ。"30分×8回"という今回だが、きっちりカタルシスと希望も含む見事な脚本である。さて、このドラマにおけるゾンビの存在は何の暗喩か。大人の宿題だね。
よしだ・うしお●'72年生まれ。ドラマ好きのコラムニスト兼イラストレーター。週刊誌や新聞でテレビ・ドラマ評を執筆。時々テレビにコメンテーターとして出演。著書「くさらないイケメン図鑑」など著書多数。ネコ2匹と同居中。
文=吉田潮
放送情報
ゾンビが来たから人生見つめ直した件
放送日時:2020年4月25日(土)22:15~
チャンネル:ファミリー劇場
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