私事だが、新宿の繁華街に住んで14年経つ。ドラマや映画では「新宿はギラギラとした猥雑で凶暴な街」と描かれることも多いが、実際には体温も湿度も年齢層も高め、人生に挫けたり躓いた人が集まる吹き溜まりのような場所だ。気取らず温かいが少々厄介、人に寛容な街でもある。「深夜食堂」はその空気感を絶妙に再現したと思う。
独特の味わいがある漫画に始まり、ドラマ化、映画化、そして海外版に動画配信版と、今や巨大コンテンツに。一見さんに優しい一話完結なので、いつどこから見てもよいが、やはりS(シーズン)1から順に見てほしい。冒頭で映る新宿の街並みの変化もぜひ比べて。たった数年で景色が激変する、都会の非情と傲慢と切なさが分かるから。
めしやのマスターを演じるのは小林薫。作務衣と下駄、そしてタバコがよく似合う。紫煙を燻らす姿には男の色気が。女性にやや甘いところもご愛敬。
何気ない料理が話題になりがちだが、最大の見どころは、俳優陣の質の高さ。甘やかされたアイドル俳優や棒演技イケメンなどは皆無。空気を作れる役者しか出ない。キャスティングに盤石の安心感があるのだ。りりィ(S1・アジの開き)、馬渕晴子(S2・あさりの酒蒸し)、志賀廣太郎(S4・ハムカツ)と、亡くなった名優を偲べる名作回も。
レギュラー陣の常連客も手練ぞろい。座って食べて飲んでいるだけで、店の雰囲気を醸し出す不破万作や綾田俊樹。ふたりの気配は、セットと一体化していると思うほど馴染む。これぞ役者の本領発揮と思うわけで。特に好きな回は、S2・白菜漬けとS3・里いもとイカの煮もの。そそるのは食欲だけにあらず。大人の恋を召し上がれ。
文=吉田潮
放送情報
深夜食堂
放送日時:2020年9月21日(月)14:35~
チャンネル:ファミリー劇場
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