コロナ禍で日常だったことが当たり前にできなくなってしまった今だからこそ胸に響き、気持ちが楽になる映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』が映画・チャンネルNECOで放送される。原作は作家・渡辺一史によるノンフィクションで、監督は前田哲。
筋ジストロフィーのため誰かの介助が無いと生きていけないにもかかわらず、病院を飛び出し、自分で募集したボランティアたちに囲まれてわがまま放題の自立生活を送る型破りな34歳の主人公、鹿野靖明を大泉洋が生き生きと演じている。そんな鹿野をボランティアの1人として支え、ダメ出しばかりされる真面目な医学生、田中を演じるのが三浦春馬。田中の彼女で、鹿野に一目惚れされ、反発しながらも次第に鹿野の率直でバイタリティあふれる生き様に共鳴していく美咲を高畑充希が演じている。
できないことがあってもクヨクヨせず「生きるっていうのは迷惑をかけあうこと」と堂々とボランティアに頼り、恋愛もあきらめず、車椅子で人生を駆け抜けた男からのメッセージ、そして、対照的とも言える役柄を演じた大泉洋と三浦春馬が本作で見せる顔とは?
■わがままで言いたい放題なのに憎めない鹿野は大泉洋のハマり役
大泉演じる鹿野は首と手しか動かせない身体のため、24時間の介助が必要。お風呂から体位交換までお世話になっているが、ボランティアに「新聞読む」「背中かゆい」と次々に注文を出し、夜中の2時過ぎに「バナナ食べたい。食べないと寝れない」と言い出すなどわがまま放題だ。初対面でボランティアに間違えられた美咲はそんな鹿野を見て「何様?」とキレるが、「みんな、俺のこと愛してるもん」とあっけらかん。いつまで生きられるかわからない鹿野には悩んだり変に空気を読んでいる暇はないのだ。
夢は、障がい者でも自立できると教えてくれた人に会うためにアメリカに行くことと、有名になって「徹子の部屋」に出ること。言葉で伝えることだけが武器(英検2級をとるために勉強中)の鹿野のマシンガントークと飄々とした佇まいは大泉にしか出せない味わいだ。この役を演じるために当時、10キロも減量し、表情や身体の動かし方など細かいところにまでこだわった演技はさすがとしか言いようがない。
■鹿野に振り回され、嫉妬する医大生の成長を三浦春馬が鮮やかに表現
鹿野の自由過ぎる生き方に魅了されてボランティアに携わるのが三浦演じる医大生の田中だ。田中と美咲がつきあっていることを知らなかった鹿野は、美咲に自分の気持ちを猛アピール。優しい田中は何も言えずに鹿野の生き方に惹かれていくが、ボランティアとして懸命にサポートする美咲を見て、2人に嫉妬を覚えていく。
医者の父親(佐藤浩市)に厳しく育てられ、自分の想いを抑えて真面目に生きてきた田中は悩みのループに陥り、夢をもあきらめかけるが、鹿野に「本音で話せよ。正直に生きてるか?オマエ」と問いかけられる。鹿野と対照的な性格であり、人と向き合ってぶつかることや熱くなることを避けがちな現代人に近い役柄を三浦が演じているからこそ、メッセージや忘れかけている大事なものが浮き彫りにされるのかもしれないと思わせられる。
エネルギー枯渇気味のときの処方箋になってくれるような映画だ。
文=山本弘子
放送情報
こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話
放送日時:2020年10月17日(土)21:00~
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら