「危険なふたり」「カサブランカ・ダンディ」「TOKIO」など数々の大ヒット曲を連発し、ジュリーの愛称で絶大なる人気を誇るスーパースター沢田研二。これまで歌手としてヒット曲を発表してきたジュリーだが、並行して俳優としても活躍。来年公開予定の、山田洋次監督最新作『キネマの神様』(2021年公開予定)の主演も決まるなど、代表作は数え切れない。そこで今回は俳優・沢田研二に注目してみたいと思う。
1967年にGSグループ、ザ・タイガースのメンバーとしてデビューしたジュリーは、その端正で貴公子的なルックスで一躍アイドル的な人気を獲得。60年代は『ザ・タイガース 世界はボクらを待っている』をはじめとしたザ・タイガース主演映画に出演していたが、1974年に藤田敏八、加藤彰監督による『炎の肖像』で映画単独主演。"ジュリー"を彷彿とさせるロックスターの姿を虚実織り交ぜて描いた同作では、ベッドシーンも登場するなど、彼の新境地ともいうべき作品となった。その後もセクシーな色気を武器に、大人の魅力をかもし出すようになった彼は、映画『太陽を盗んだ男』や『魔界転生』、ドラマ「悪魔のようなあいつ」など、チャレンジングな作品にも数々出演してきた。
そんなジュリーが、当時、気鋭の監督として注目を集めていた森田芳光監督とタッグを組んだのが、11月8日(日)に衛星劇場で放送される1984年の映画『ときめきに死す』だ。丸山健二の小説を実写化した同作は、2人の男と、そこにやってきた1人の女の奇妙な生活をオフビートな描写で、淡々と描き出したスタイリッシュなドラマ。
森田監督自身、原作小説を読んで「僕にはこれはできません。いい映画にはなるけど、ヒットするような作品にはならない」と感じ、一度は監督のオファーを断ろうと思っていたというが、主演がジュリーであると聞くや、「ジュリーは僕の青春のシンボルみたいなものでしたから。それを自分で演出できるなんて。ぜひやらせてください(笑)」と翻意したというエピソードがある。それほどまでにジュリーは当時の大スターだった。
ジュリー演じる主人公の工藤は、日々、身体を鍛錬しながら、暗殺の決行日を静かに待っている謎の男。口数が少なく、人に会うたびに「涼しいですか?」と問いかけ、そこから生じる会話のズレが、この映画に独特な浮遊感を醸し出す。淡々とした日常をオフビートに描き出しているが、そこから一気に反転。一度観たら忘れられない鮮烈なクライマックスは映画ファンの間でも語り草となっている。
謎の組織から多額の報酬で雇われ、謎の男・工藤(沢田)の世話をすることになった大倉(杉浦直樹)、そしてそこに派遣されてきたパーティー・コンパニオンのひろみ(樋口可南子)らとのやりとり、次第に生まれてくる奇妙な絆も独特なおかしみを醸し出す。そんな3人の、つかみ所のない、不思議な存在感も本作の見どころである。
文=壬生智裕
放送情報
ときめきに死す
放送日時:2020年11月8日(日)10:00~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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