近年では、地上波で放送する時代劇の本数が減ってしまい、残念な思いでいる時代劇ファンも少なくないはず。しかし「量」こそ減ったとはいえ、良作が続々と生まれているのは嬉しい限りだ。
2020年にNHK BSプレミアムで放送された「大江戸もののけ物語」も、そんな質の高い作品だ。同作は、時代劇初挑戦の岡田健史が主演した、いわば「ファンタジー時代劇」である。江戸を舞台に、旗本の次男坊である新海一馬(岡田)と、 自身の運命に立ち向かう妖怪・天の邪鬼(本郷奏多)との交流を通して、若者たちの成長を描いた青春ドラマ的な側面を持つストーリーだ。この作品が2月18日(木)から時代劇専門チャンネルで放送される。
本作の質をいっそう高めているのは、「妖怪」作品でもある点。幻想文学の巨匠・荒俣宏の監修のもと、猫又や河童といった定番の妖怪キャラから新種の妖怪まで、バラエティー豊かな妖怪たちが登場することが、本作の大きな特徴なのである。妖怪のデザインは漫画「BTOOOM!」で知られる井上淳哉が担当。この2人は、2005年の大ヒット映画『妖怪大戦争』にもかかわっている。
人情時代劇でありながら、妖怪ファンタジーでもあり、人間と妖怪のバディによる青春ドラマでもあるという、まさにさまざまな魅力がてんこ盛りの他に類を見ない作品に仕上がっている。
さて、今回特に注目したいのは、本作で主演を務める岡田健史についてだ。2018年放送のTBS系ドラマ「中学聖日記」で有村架純の相手役に抜擢され、鮮烈なデビューを飾ったが、既に「とんでもない新人」感を存分に醸していた。高校野球の名門校で鍛え挙げた肉体の逞しさに加えて、精悍な顔つきと力強い視線。いわゆる「目力」のある表情に思わず吸い込まれるように見入ってしまった視聴者は少なくない。
岡田の感情表現がリアリティを感じさせるのは、「素直さ」にあるのではないか。ひたむきに役に向かい合い、真摯に心情を表現しているので、彼の演技には嫌みがない。どんな役を演じても、その人物になりきっているように見えるのだ。
本作においても彼の素直な演技は大いに発揮されていて、視聴者は主人公に感情移入できる。気は弱いが心の優しい新海一馬は、ファンなら、放っておけない「なんとかしてあげたい」心情に陥るはず。岡田自身の人間的な魅力が炸裂し、目が離せなくなることだろう。
ストーリーを簡単に紹介しておくと、岡田演じる新海一馬の寺子屋は、いわば「学級崩壊」状態。気が弱く、剣術も不得手な一馬だが、ひそかに妖怪研究に打ち込んでいた。幼いころに蔵に閉じ込められた際、暗闇に潜む「異形の者」が一馬の危機を救ってくれた経験から、妖怪は実在すると信じていたのだ。そんな一馬の前に、"天の邪鬼"と名乗る妖怪が突如出現したことから、一馬は "天の邪鬼"やほかの妖怪たちと行動することになっていく...。
異色の時代劇。時代劇ファンも楽しむことができるだろうし、時代劇をあまり見慣れていない人も新鮮な魅力を感じることができるだろう。
文=渡辺敏樹(エディターズ・キャンプ)
放送情報
大江戸もののけ物語
放送日時:2021年2月18日(木)21:00~
※毎週(木)21:00~ほか
チャンネル:時代劇専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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