お笑いコンビ・ピースの又吉直樹に芥川賞をもたらした小説「火花」は、ドラマ、舞台、映画、コミックと多方面に展開。その中で、菅田将暉と桐谷健太がダブル主演し、芸人の世界で生きようともがく男たちの夢と挫折の物語を描いたのが映画版の『火花』である。この作品が4月10日(土)に映画・チャンネルNECOで放送される。監督は芸人のみならず、俳優、映画監督としても高い評価を受ける板尾創路。芸人を題材とした原作小説に、「これは芸人である自分が撮りたい」という思いで監督に挑んだという。
主演2人のキャスティングは「舞台に立ち、人を笑わせる"漫才師"としての存在感」「目指した"夢"を前に惑い、突き進む危うさ」を表現できる稀有な俳優であるということから白羽の矢が立てられた。auの「三太郎」CMシリーズやドラマでも共演経験があり、以前から気を遣わないような関係性を築いていたということも大きかった。笑いが日常となっている大阪出身だという共通点もある。そうした2人の関係性が、劇中で演じた徳永と神谷の関係性にも重なってくる。
菅田演じる徳永は、芸人として破滅的な道に突き進む先輩の神谷に憧れの気持ちを抱き、ともにいることで高揚感を抱いている。だが、それと同時に、その奥底には、ある種の悲しみや焦燥感がほのかに垣間見える。そんな複雑な徳永という役を、菅田は見事に演じきっている。
近年は映画やドラマの宣伝などでバラエティー番組などに出演する際も、抜群のトーク力で番組を盛り上げている菅田。2017年にラジオの仕事が始まり、そして本作に出演したということも大きかったのではないだろうか。
番組などでも常々、芸人好きを公言し、彼らへの強烈なリスペクトを表明してきた菅田。それゆえに本作での"芸人役"のオファーにはプレッシャーもあったというが、並々ならぬ意気込みでチャレンジ。持ち前の度胸とセンスで芸人・徳永を見事に体現している。また、「漫才コンビのツッコミ役は、ボケ役よりも高度なお笑いの技術が要求されるため、経験者を入れたい」という板尾監督のこだわりにより、劇中で徳永が組むお笑いコンビ「スパークス」の相方に、お笑いコンビ2丁拳銃の川谷修士が抜てきされた。
1974年生まれの川谷と、1993年生まれの菅田とは、およそ19の年齢差があるが、劇中の「スパークス」はその年齢差を感じさせない。コンビの信頼感、空気感を浮かび上がらせるために、2人はプライベートでも敬語を使わずに一緒に時間を過ごしたという。その結果、アドリブも自然と飛び出すなど、漫才のうまさが際立った。特にクライマックスの漫才シーンは魂をぶつけ合うようなやりとりが胸を熱くさせるものがあり、圧巻だ。
芸人志望の若者は数多くいても、その中で芸人として生きていくことを許されるのはほんのひと握り。夢半ばで挫折する者も多く、決して全員が報われるとは限らない。だが結果はどうであれ、自分で選んだ道に間違いは無い。そんなまなざしが優しい映画だ。
文=壬生智裕
放送情報
火花
放送日時:2021年4月10日(土)21:00~
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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