1970年代から1980年代にかけて「勝手にしやがれ」「TOKIO」など、ヒット曲を連発し、スーパースターの呼び名をほしいままにしていたジュリーこと沢田研二。
俳優としても『太陽を盗んだ男』『魔界転生』など、数々の代表作に出演してきたジュリーだが、実は『時をかける少女』や『ねらわれた学園』などで知られる"映像の魔術師"こと大林宣彦監督とタッグを組んだ作品がある。その幻の作品が「恋人よ、われに帰れ(主演・沢田研二)」である。
本作は1983年に放送されたテレビドラマ。ちなみに1983年といえば、映画『時をかける少女』が公開され、さらに本作と「麗猫伝説」というテレビドラマが2カ月連続で放送されるなど、大林監督の脂がのっていた時期だ。
脚本を担当したのは、「夢千代日記」「花へんろ」の早坂暁で、彼が生涯を通じて訴えてきた反戦・反核・平和へのメッセージが本作でも貫かれている。共演者は大竹しのぶ、泉谷しげる、風吹ジュン、財津一郎、小川真由美、トロイ・ドナヒューなど実力派が集結した。
本ドラマでジュリーが演じるのは、日系アメリカ人のケン・オータ。アメリカの日系人収容所出身の彼は、2つの祖国に揺れながら裏切り者の汚名を返上するためにアメリカ兵に志願。広島に渡った姉のナオミ(小川)の消息を追うために、原爆が投下され廃虚と化した広島へやってきたところから物語ははじまる。そこでケンは、右腕にケロイドを負った被爆者のケイ子(大竹)と出会い、恋に落ちるが、敗戦を経てもなお、2人は核や戦争の影に翻弄されることになる...。
立東舎から発売されている書籍「A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る」によると、大林監督はジュリーのことを「非常に誠実な、嗜(たしな)み深い俳優さん」と感じたという。撮影現場では常に監督の意志を尊重し、その演出に応えようとしていたというジュリーだが、そんな彼が一瞬だけスーパースターの顔を見せた時があったのだとか。闇市で知り合った復員兵・秋本(泉谷)に誘われたケンが、進駐軍相手のジャズクラブでシンガーとして歌い始める、というシーンがそれで、そのシーンの衣装合わせの際に大林監督から「気に入った衣装を着なさい」と言われたことから、スーパースターの血が騒いだジュリー。そこで彼は "ジュリーらしい"華やかな衣装を選んだのだという。
撮影の準備を終えて、ジュリーのもとにやってきた大林監督は、その華やかな衣装を見てビックリしたというが、それでも「お客さんはジュリーを観たいんだからそれでも構わないか」と考え直し、そのままの衣装での撮影。劇中の物語中盤には彼が歌うシーンがしばしば登場するが、そこはまさにエンターテイナー、ジュリーの面目躍如たる華やかなシーンとなっている。ちなみに大林監督によると、このシーンの撮影後、ジュリーは反省していたというが、編集の際にあらためて映像をつないでみたところ、撮影時に感じていた違和感が「なんでもない普通の人がデビューした」ように感じられ、作品に非常にマッチしていたという。
大林監督にとって戦争というテーマは、生涯を通じて大きな位置を占めていた。本作は、そんな大林監督の作家性と、ジュリーというスーパースターの魅力が融合した作品として注目の一本である。
文=壬生智裕
放送情報
恋人よ、われに帰れ(主演・沢田研二)
放送日時:2021年4月29日(木)14:40~ほか
※5月より、沢田研二出演作を3ヶ月連続で特集放送
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら