2020年に約9年間活動してきた乃木坂46を卒業し、女優・タレントとして活動している白石麻衣。エースとしてグループをけん引しながらモデル業、女優業などでも活躍し、豊かな才能で多くのファンを魅了し続けてきた。白石の人気の秘密をひも解いてみると、その主たる要因は"活躍する場所ごとに違った顔を見せてくれる"からではないだろうか。乃木坂46ではかわいらしくみんなから愛されるアイドルとしての顔、モデル業では女性が憧れる美しく自立した大人の女性としての顔、女優業では千変万化な役者としての顔というように、それぞれの場所で違った輝きを放っているからこそ、常に新鮮な魅力を発し続けて観る者の心を捉えて離さないのだ。そんな数ある顔の中で、白石の役者としての顔の中でもとりわけ役への深い没入が観られる作品がドラマ「やれたかも委員会」だ。6月5日(土)に日本映画専門チャンネルで特別編と全8話が一挙放送される。
同ドラマは、吉田貴司による恋愛コメディ漫画をドラマ化したもので、異性との結局「やれなかった」過去のエピソードにとらわれた相談者が「やれたかも委員会」の前で独白して、果たして「やれた」のか「やれたとは言えない」のか判定を仰ぐ1話完結のストーリー。白石は、「やれたかも委員会」の唯一の女性委員・月綾子を演じる。
ドラマ内で相談者が語るエピソードは、誰もが1度は経験したことのあるようなシチュエーションに"共感"でき、エピソードに登場する異性の心理状況を論理的に解明しながら議論し「やれた」のか「やれたとは言えない」のかを委員たちと共に"推理"することができるなど、新感覚の楽しみ方ができる。「やれた」か「やれたとは言えない」かというくだらないテーマを真剣に議論する姿もシュールでくすっとさせられてしまうのだが、それらを成立させているのは役者陣の説得力のある芝居であることは明白だ。
佐藤二朗や山田孝之といった名優の芝居はもちろんだが、白石も2人に引けをとらない芝居を披露している。1話完結のオムニバス形式で各話の相談者のエピソードを中心に展開していくため、主宰者の能島譲(佐藤二朗)、委員のオアシス(山田孝之)、綾子の「やれたかも委員会」の面々は、相談者に質問を投げかけたり、自分の意見を主張し判定するだけにとどまっており、一見すると綾子の印象は芝居よりもミニスカートのスーツに身を包み、ピンヒールを履き、眼鏡を掛けて、淡々とした言い回しといった見た目から受ける情報によるものが強い。さらに、「童貞だったんですか?」「キスはキス、セックスはセックスです」といったファンならずとも思わずドキリとしてしまうような発言も表情一つ変えずに発しており、理知的でクールビューティーな女性というキャラクターを構築している。
だが、白石の芝居にスポットを当ててみると、「ミニスカートのスーツ」「ピンヒール」「眼鏡」「ドキリとさせられる発言」といった前面にあるキャラクターの構成要素を、白石の芝居が支え、それぞれに説得力を持たせていることが分かる。例えば、相談者の話を聞きながら眼鏡のブリッジを指で押し上げる仕草では、相談者から目線を外さない場合と1度外す場合とで興味の度合い変えて表現していたり、いつも机の上で手を組み、いつも同じ向きでマグカップを持って飲み物を飲むことできっちりした人間性を表すなど、つい見過ごしてしまいそうな細かな芝居を積み上げることで綾子というキャラクターの、構成要素の隙間を埋めて確固たるものにしているのだ。
特にクールで理知的な綾子は一瞬でも"らしくないところ"が見えてしまうとキャラクターが瓦解しかねない完璧さが必要条件の役柄であるため、かなりの役作りが求められる。まさに"役として生きる"くらいの深い没入が必須で、目線や所作、息遣いまでも綾子でなくてはならない難役といえよう。なぜなら動きやせりふが少ないぶん、それらに頼ることができないからだ。
ミニスカートから伸びる美脚も、眼鏡で強調される涼しい目元も、インパクトのある発言もどれもドキリとさせられるが、その節々に潜む白石の細やかな芝居とそれらを表現するための徹底した役作りを垣間見ると、白石の演技に対する"真摯に追求する姿勢"によりドキドキすること請け合いだ。
文=原田健
放送情報
やれたかも委員会 特別編
放送日時:2021年6月5日(土)1:30~
やれたかも委員会#1~4
放送日時:2021年6月5日(土)2:00~
やれたかも委員会#5~8
放送日時:2021年6月5日(土)3:55~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
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