野田秀樹率いるNODA・MAPの舞台『フェイクスピア』に主演中で、綾瀬はるかとの共演が話題となったドラマ「天国と地獄 ~サイコな2人~」での繊細な演技も視聴者から高く評価された高橋一生。
俳優としての実力に注目していた監督、タナダユキが自身の小説を映像化するに当たって"哲雄役を託せるのは、高橋一生さんしかいない"と確信したという映画が『ロマンスドール』(2020年)だ。この作品が6月28日(月)に映画・チャンネルNECOで放送される。
高橋演じる哲雄はラブドール職人。ラブドールとはリアルな女性の肌の感触や美にこだわって作られる人形のこと。哲雄と恋に堕ち、夫婦として愛を育んでいくヒロインの園子を蒼井優が演じている。ちなみに高橋と蒼井が映画で共演したのは「リリイ・シュシュのすべて」以来18年ぶりのこと。本作で高橋が見せる表情、そして切なくもコミカルで退廃的な映画に引き込まれる理由とは?
■なりゆきでラブドール職人になった不器用な主人公を高橋一生が演じる
高橋演じる哲雄がラブドールを作る工場で働くことになった理由は、美大の彫刻科を卒業したもののフリーターでお金がなかったから。哲雄の師匠となる相川(きたろう)が「究極の人形を作りたいんだ」「そこには魂が宿ると思っている」と熱く語る前半のシーンはやがて哲雄の人生を左右していく。
よくわからないまま相川に巻き込まれた哲雄はシリコン素材で女性のリアルな乳房を表現するために医療用の胸の型取りをすると偽り、サンプルになってくれる女性を探すことに。明らかに怪しげな2人に騙されてモデルとして現れたのが蒼井演じる園子だ。相川に懇願され、オドオドしながら目をつぶって園子の胸を触らせてもらうことになった哲雄はたちまち天国気分。ピアスを忘れて立ち去った園子を全力疾走で追いかけ、普通なら引きそうな本気の表情と状況で「あなたのことが好きです。好きになってしまいました」と告白する。
2人は付き合い、結婚することになるが、結婚式で緊張のあまり震えて新婦にはめる指輪を自分の指にはめようとしたり、夫婦になっても自分がラブドール職人であることを打ち明けられなかったりと、手先は器用なのに内向的で不器用な職人気質の主人公を視線や仕草で細やかに表現している。ちなみに高橋は哲雄を演じるに当たって実際にラブドール工場を見学。モテるはずの容姿なのに、街を歩いていても目立たず、冴えない雰囲気を全身から醸し出す佇まいからして哲雄になりきっている。
■究極のドールを追求するロマンとラブストーリーの結末が泣ける
園子の協力のおかげで完成したラブドールは大ヒット商品に。哲雄の仕事は多忙を極め、やがて2人の関係にはヒビが入っていく。余裕のなさから園子の気持ちに気づかなかった哲雄、本音で話し合えない関係と寂しさに嘘をついて家を飛び出す園子。そしてストーリーは思いもよらない方向に展開していく。話題になった2人のベッドシーンも美しく、儚く、刹那的なロマンを感じさせる。それは究極を求めるラブドールの美に通じる切なさだ。
きたろうや会社の社長を演じるピエール瀧、管理業務を担当する渡辺えりなど名脇役たちの明るさは切ないストーリーに救いをもたらす。ラストシーンは泣けるのに不思議と清々しさすら感じさせてくれる。見た人に余韻を残す映画だ。
文=山本弘子
放送情報
ロマンスドール
放送日時:2021年6月28日(月)23:20~
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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