レジェンド的名作ドラマ「東京ラブストーリー」(1991年)をはじめ、ギャラクシー賞など数多くの賞を受賞した「最高の離婚」(2013年)など、ヒット作請負人という印象もある脚本家・坂元裕二。近年では、映画や舞台、リモートドラマなどでも精力的に活躍している。
そんな売れっ子の坂元が、テレビ朝日での初の作品として話題を呼んだのが、2020年放送の「ドラマスペシャル スイッチ」だ。同作は、7年間の交際の後、別れた後も腐れ縁を続ける元恋人同士の2人が、ある事件を巡って検事と弁護士として対峙するリーガルサスペンス×ラブストーリー。主人公のカップルは、阿部サダヲ(検事)と松たか子(弁護士)が演じている。
阿部は「anone」(2018年)、リモートドラマ「Living」(2020年)と、坂元作品に連続して出演しているが、検事役に挑むのはこれが初めて。個性的で深みのある表現力で、どんな作品でも唯一無二の存在感を発揮する阿部は、坂元脚本との相性も抜群なだけに、本作での演技も大いに注目された。
阿部演じる駒月直検事の元恋人で、敏腕弁護士・蔦谷円を演じるのは、松たか子。意外にも彼女にとってもテレビ朝日のドラマでは本作が初仕事だったという。彼女も歌手としてのデビュー曲「明日、春が来たら」で作詞を担当してもらうなど、坂元とは縁が深い。2017年には、5年ぶりに主演したTBS系の連続ドラマ「カルテット」で坂元脚本に初挑戦した。
阿部と松のコンビでは、映画『夢売るふたり』(2012年)で結婚詐欺をはたらく夫婦を演じて評判となったほか、舞台などでの共演もあり、相性抜群。本作での共演にあたり、阿部が「松さんとの役者としての相性は100%」といえば、松も「阿部さんにとって100%でありたいと思っています。そうありたいと思わせてくださる俳優さんなんです」と語っている。
そんな黄金コンビが演じるこのドラマは、圧倒的なセリフ量で繰り広げられる痛快な会話劇が展開する。俳優泣かせの脚本ともいえるが、そこは坂元作品のツボを心得ている2人だけにお手のもの。物語は、別れた後もお互いの恋人を紹介しあうなど、何かにつけては顔をつきあわせる微妙な関係を13年も続けている直と円。そんなある日、直が担当する「みなとみらい連続突き飛ばし事件」で死者が発生し、事件が一気に深刻化。これまで頑なに刑事事件の弁護はしないと決めていたはずの円が、事件の被疑者を弁護することになる。
被疑者を立件するのが使命の検事・直と、釈放させたい弁護士・円。逆の立場となって、それぞれが真実を追い求めるというサスペンスストーリーはまさに見ごたえ十分。事件の真相はもちろん、直と円の関係にも目が離せない。また、映画『君の膵臓をたべたい』などで若者世代を中心に支持が熱い月川翔監督が本作の監督を務めている点でも話題だ。臨場感あふれる演出もさることながら、恋人時代の直と円の恋愛がひょんなことからドラマ化されていた、という驚きの劇中劇なども用意されるなど、意外な仕掛けも満載となっている。
坂元裕二×松たか子といえば、折しも2021年4月クールのフジテレビ系ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」が話題を呼んだばかり。同作も多彩で個性的な人物を複雑に絡めたストーリーの妙で魅了したが、その核となったヒロイン・とわ子を演じた松の存在感がピカイチだった。同作に夢中になった人なら、同じコンビの「スイッチ」を一味違った視点でより楽しめそうだ。
文=渡辺敏樹(エディターズ・キャンプ)
放送情報
ドラマスペシャル スイッチ
放送日時:2021年7月2日(金)10:30~
チャンネル:テレ朝チャンネル1 ドラマ・バラエティ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら