アナウンサー、タレント、女優、モデルと、さまざまな場所で活躍している乃木坂46の卒業生たち。それぞれがアイドル時代と一線を画した魅力を放ち、ファンたちに新しい面を見せてくれている。そんな中で、アイドルだったことがかすんで見えるほどに女優としての才能を開花させているメンバーの1人が伊藤万理華だ。乃木坂46時代にも映画やドラマ、舞台などで芝居の才能を発揮していた伊藤だが、卒業後の活躍には目覚ましいものがあり、地上波連続ドラマ初主演となる「お耳に合いましたら。」(テレビ東京系)が放送中のほか、8月には主演映画も公開予定。
そんな伊藤の圧倒的な演技力に触れられるのが、5月、6月に上演された舞台「M&Oplaysプロデュース『DOORS』」だろう。同作は劇作家・演出家の倉持裕の約1年半ぶりとなる新作公演で、舞台初主演となる奈緒、伊藤、菅原永二、今野浩喜、田村たがめ、早霧せいなが出演するファンタジー作品。伊藤は、奈緒演じる主人公・真知と共に、パラレルワールドをつなぐ"ドア"を介して2つの世界を行き来する不思議な旅をする女子高校生・理々子を演じる。本作が8月8日(日)に衛星劇場でテレビ初放送される。
クラスでも目立った存在の理々子のグループからいじめを受けていた真知は、あるトラブルがきっかけで急に別人のように人が変わってしまった元女優の母親・美津子(早霧)に違和感を覚える。美津子が別人だと確信した真知は、パラレルワールドが存在し「こちら側」の世界と「あちら側」の世界をつなぐ"ドア"が自宅の納戸の"ドア"であると推理。いがみ合いながらもその推理にたどり着くまでの過程を共にした理々子と、"ドア"を通って「あちら側」の世界へ行ってみる、というストーリー。
2年前ながらドラマ「あなたの番です」(2019年、日本テレビ系)での怪演が記憶に新しい奈緒を筆頭に、実力派ぞろいのキャスト陣が、それぞれ「こちら側」と「あちら側」の2役を熱演。パラレルワールドの存在を知る者と知らない者、それぞれの思考と望みなど、12人の登場人物が入り乱れる奥深さを創出して、「このキャスト陣でなければ実現不可能だったのでは?」と思わせるほどに"もう一つの世界で生きる同一人物"を見事に演じ分けている。
そんな中で、伊藤は折り紙付きの奈緒の演技に勝るとも劣らない演技力を披露。理々子は真知と対照的な人物ながら物語の最後まで真知と行動を共にする役柄で、伊藤は奈緒とのシーンがほとんどなのだが、多くの掛け合いの中で"怪演女優"奈緒を相手に同等の存在感を出している姿は圧巻。しかも、ネガティブで引っ込み思案な真知を敵視しながらも一緒に行動するという二律背反な部分に説得力をもたせているから驚きだ。
一方で、理々子自身のキャラクター像も繊細に表現。いじめという行動の源流となる真知への嫉妬心や、真知の前では思わず強がってしまう弱さ、敵視している真知を憎み切れない優しさ、不思議な旅を通して変化する心情など、理々子という1人の少女を鮮明に描き出して肉厚なキャラクターへと成長させている。
1人の人物の役柄を鮮やかに表し、その成長を表現しながら、舞台上で存在感を放ち続けるというのは容易にできることではなく、稽古だけでも養えないいわゆる"芝居の才能"というものが不可欠だ。伊藤がその"選ばれし者"である裏付けを感じつつ、実力派俳優陣が紡ぐ倉持作品の世界観を堪能してみてはいかがだろうか。
文=原田健
放送情報
M&Oplaysプロデュース「DOORS」
放送日時:2021年8月8日(日)16:15~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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