2021年4月に、惜しまれながらこの世を去った名優・田村正和。彼の代表作といえば、若い頃の時代劇「眠狂四郎」と後年の「古畑任三郎」がすぐに思い浮かぶ。後者でのコミカルな名探偵役はまさに当たり役となったが、もともとニヒルな二枚目のイメージが定着していた田村のコメディ路線第1作となったのは、1984年にTBS系で放送された「うちの子にかぎって...」だった。同作で教え子たちに振り回される教師役を演じた田村のイメージは一新。従来の印象とは180度異なるコミカルな演技が評判となり、以降の田村はコメディ路線のドラマに続々と主演して、軒並みヒットさせていった。
そんな時期の代表作が、1987年にTBS系で放送された「パパはニュースキャスター」である。「うちの子にかぎって...」の脚本を手掛けた伴一彦とプロデューサーだった八木康夫らと再びタッグを組んで制作された作品で、田村は独身主義のニュースキャスター・鏡竜太郎を演じている。子ども嫌いの竜太郎は、生涯独身を信条として悠々自適な生活を満喫していた。無口で無愛想な性格で、酒癖がすこぶる悪く、酔うと女性を口説いてはまったく記憶にないという危ない男。そんな彼の元に、12年前に酒の席で口説いた3人の女性との間にできたという娘が突然出現し、いきなり3人の父親になるというところから物語が始まる。
子ども嫌いの独身主義者が、突然生意気盛りの3人の女の子の父親になるというユニークな設定も面白かったが、3人娘の名前がすべて「愛(めぐみ)」だったり、娘を演じた子役たちがいずれも芸達者で魅力十分だったりして、そんな彼女たちを相手に毎回オロオロする田村も演技が絶妙にコミカルだった。
劇中で竜太郎が出演する「ニュースチャンネル」は、もちろん架空の報道番組だが、放送局としてはTBSが実名のままで登場しており、局内でも撮影を行うなどして、非常にリアルだった。当時のTBSアナウンサーが実名で登場するばかりでなく、野球評論家の小林繁が「ニュースチャンネル」のスポーツキャスターで、同番組のお天気キャスターは、当時のTBSの番組に出演していた相沢早苗という具合に、実在の有名人が実名で登場するのも一興である。
3人の娘を演じた、西尾麻里、大塚ちか子、鈴木美恵子の存在感は抜群だったし、「ニュースチャンネル」のアシスタントとしてヒロイン役で登場する浅野温子がなんとも魅力的だ。ほかにも隣家の主人を演じる所ジョージなどの脇役も光っているのだが、本作はやはり田村の好演を抜きにして語れない。彼にしか出せない独特のコミカルな味のある演技は、この作品で確立されたと言っても過言ではない。本作を見ると、後の「古畑任三郎」の礎ともいえるような田村の絶妙な間やクセのある表情、セリフ回しといった演技の「型」を感じ取ることができる。
今見ても新鮮な発見が多い「パパはニュースキャスター」はTBSチャンネル2で放送される。田村のモノマネをする人は多いが、彼の新作がもう見られないことは、やはり寂しい。
文=渡辺敏樹(エディターズ・キャンプ)
放送情報
パパはニュースキャスター
放送日時:2021年8月23日(月)18:00~
チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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