『勝手にふるえてろ』(2017年)の原作者・綿矢りさ×大九明子監督が再びタッグを組んだ映画『私をくいとめて』。アラサー女性の楽しさと葛藤をとびきり魅力的に演じきった女優・のんの表現力に目を見張ると共に、林遣都と紡いだ可愛らしいカップル像も大きな見どころだ。
10月24日(日)にWOWOWシネマにて放送される本作でのんが演じているのは、快適な"おひとりさま生活"に慣れすぎて、脳内に相談役の"A"が誕生してしまった31歳の主人公、みつ子。会社ではちょっと変わり者だけれど気の合う先輩に恵まれ、長らく彼氏は不在でも充実のソロ活を無理なくエンジョイ。そんなみつ子のゆるゆるとした日常に久々の恋が舞い込み、彼との関係をさらに深めるべきか思い悩んでいく。
カフェも焼肉も海外旅行だって、一人で行ける。脳内のもう一人の自分"A"とあれこれ対話しながら過ごす一人暮らしの部屋も居心地がいい。でも何かが足りないという自覚だってあるし、親友が結婚してしまい取り残されたようなさみしさを覚えたり、久しぶりの恋に戸惑ったりと、アラサー女性の抱えるモヤモヤや悲喜こもごもが実にリアルに映し出されている。公開時も「刺さりまくる」「わかりみが深い」と同世代の女性から支持と共感を集め、第33回東京国際映画祭では観客賞を受賞した。
時にやさぐれ、泣き、怒り、吠えるみつ子は、一歩間違えば狂気にもなりかねないキャラクターだ。しかし、のんはおかしみとキュートさ、そして圧倒的な表現力を持ってみつ子の心に吹き荒れる嵐を体現し、どの瞬間も見逃せないほどの輝きを放っている。東京国際映画祭の受賞者会見では、「女優のお仕事が大好き。ここに一生いたい。これは自分の生きる術」と女優業へのあふれる想いを告白していたが、本作はそんな彼女の新たな代表作の一つとして、見る人々の記憶に深く刻まれるはずだ。
みつ子が恋する多田くんを演じるのは、硬軟演じ分ける確かな実力で出演作の途切れない俳優となった林遣都。みつ子の会社にたびたび足を運んでくる営業マンの多田くんは、定期的にみつ子の部屋を訪ねては彼女の手料理をもらっていく、腹ペコ男子。真面目すぎる性格で、なかなか敬語が抜けなかったり、靴をきちんとそろえてみつ子の部屋に上がる姿も好感度大。恋に不器用な2人が少しずつ距離を縮めていく様子は、たまらなくかわいらしく、ずっと見ていられる、永遠に見ていたい...と、ニヤニヤとしてしまう人も多いはず。
大九明子といえば、どこかこじらせている女子を描くことに定評のある監督だ。松岡茉優が主演を務めた『勝手にふるえてろ』でも妄想爆発系の女性を見事に描いていたが、『私をくいとめて』では一層、ヒロインの心象風景が大胆かつ鮮やかに表現されているように感じる。映像の面白さも堪能しつつ、みつ子の恋の行方を見届けてほしい。
文=成田おり枝
放送情報
私をくいとめて
放送日時:2021年10月24日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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