「きのう何食べた？」ケンジ役とはまるで別人？内野聖陽が『臨場　劇場版』で見せた演技

内野聖陽が敏腕検視官に扮した人気ドラマ「臨場」「臨場　続章」に続く『臨場　劇場版』(2012年)。この作品が11月7日に映画・チャンネルNECOで放送される。原作は横山秀夫の小説だ。

近年の内野といえば大ヒットドラマ「きのう何食べた？」の西島秀俊とのカップル役でもおなじみ。劇場版『きのう何食べた？』の公開も間近に迫り、NHK朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」ではヒロインの父親役を演じるなど、演技派俳優として大活躍中だ。徹底した役作りで知られる内野が、「きのう何食べた？」のシロさんに甘える美容師・ケンジ役とは真逆と言ってもいい主人公の検視官、倉石義男を演じたのが「臨場」。劇場版は倉石の骨のある生き方、人間くささがストレートに伝わるヒューマンサスペンス。本作で内野が見せる魅力、深みのある演技とは？

■ハードボイルドな佇まいの裏に垣間見える優しさ

まず、映画では死亡者4人を出すことになった東京・吉祥寺で起こった無差別通り魔事件の凄惨なシーンが強烈な印象を与える。子どもをかばって刺された母親。「やめて！」と叫んだために犯人、波多野(柄本佑)に無残に殺される少女。現場に駆けつけた倉石班は遺体に手を合わせてから、刺し傷など状態、状況を細かく調べていく。倉石は徹底したこだわりの男。「確認は終わりだ」と言われても「終わってねえ！」と亡くなった母親の手に圧迫痕があることから、現場に置いてあったバギーを両手で強く握り、赤ちゃんを守ったことを割り出していく。

ドラマシリーズからのトレードマークの服はタンクトップにレザージャケットで口癖は「俺のとは違うな」。どこからどう見ても気難しそうでコワモテで組織に馴染めないアウトサイダータイプだが、遺族の到着が遅れている少女の遺体のそばから離れない倉石の姿から優しさがもの言わずとも伝わってくる。無差別殺害事件の犯人は刑法第39条(心神喪失者の行為は、罰しない)により守られることになるが、この事件を巡って物語が展開していく。

■恩師との再会、最後までブレない倉石の生き方

残忍な事件の2年後に犯人の弁護に当たった弁護士と精神科医が相次いで殺害されたことから、倉石は自分を検視官の道に導いてくれた安永教授(長塚京三)と再会することになる。そこで語られるのが"もの言わぬ死者の声を聞くのが私たちの仕事だ"と先生に言われたことが今でも胸に刻まれているという言葉。劇場版では倉石のルーツが明かされ、少女を殺された母親の悲痛な言葉を受け止める場面からも、貫き通してきた仕事への真摯な姿勢がにじむ。かつて通り魔事件で最愛の妻を殺され、無念を抱えながら、部屋で植物に愛情を注いできた倉石。その孤独と美学を曲げない生き方がクローズアップされているのが劇場版だ。

内野の検視官としての妥協を許さない厳しい視線と遺族のやりきれなさに寄り添う目線、背中だけで心情を物語る演技には深みがあり、内野自身が倉石という役柄に愛情を持っているからこその説得力がある。検視官、倉石という男の生き様、魅力に引き寄せられる作品だ。

文＝山本弘子

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