名匠・井上昭監督がかねてより制作を熱望していた藤沢周平の時代小説「殺すな」が、ついに映像化された。主人公の浪人・小谷善左エ門を演じるのは、井上監督の「鬼平外伝 夜兎の角右衛門」や「冬の日」にも主演した中村梅雀。そして同じ長屋に住む訳ありの吉蔵とお峯を、柄本佑と安藤サクラが演じる。
「井上監督の作品であれば、通行人でも何でも出たい。監督の全てが魅力的で、現場では3人とも監督と過ごしている喜びを共有しているという雰囲気でした。サクラちゃんはものすごく緊張していて、『せりふが飛んだらどうしようと思って眠れなかった』とよく言っていました。2人とも本番に入った時の集中力がただ者ではなく、すごく良い役者と共演しているなと感じました。小舟でのシーンなんて、あの2人じゃなきゃ演じきれないですよ」
井上監督といえば、長回しが有名。今回も多用され、「ここもワンカット!?」と驚かされたという。
「酔っ払った吉蔵が善左エ門の家に来て、出ていくところまでワンカット。本編にはありませんが、撮影では担いで送るところまで撮影しましたからね(笑)」
善左エ門は筆づくりの内職をして静かに生きているが、実は妻を信じきれずに手に掛けてしまったという過去を背負っている。
「男として哀れだけど、妻へのおわびのために生きているのだろうなと思います。そして偶然出会った若い男女をわが子のように思うことが、少し生きる力になっているのかなと思いますね」
物語では善左エ門の過去と、吉蔵とお峯の行く末と心情がリンクしていく。その中で印象的だったのは、善左エ門が「妻を私が殺した」と告白するシーンだと中村は語る。
「サクラちゃんと2人の長いシーンで、この作品のテーマにもつながる場面でしたのでとても大事に演じました。藤沢周平作品は説明的なせりふが何一つないので、裏の思いをいかに感じさせるかが大事。完璧に分からせるのではなく、想像させるんですね。そして、まさに井上昭作品だなという濃密感と情感が隅々までピシッと流れ、52分なのにものすごくたっぷりとした充実感が味わえる作品になっています」
なかむら・ばいじゃく●1955年東京都生まれ。1965年に初舞台を踏み、1980年に劇団前進座へ入座。同年、2代目中村梅雀を襲名。2007年に退座。舞台や映画、ドラマなどで活躍するほか、ベース演奏や作曲など音楽活動も精力的に行っている。
取材・文=及川静
放送情報
殺すな
放送日時:2022年2月1日(火)19:00~
チャンネル:時代劇専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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