"政次ロス"を癒す、ドラマ『カルテット』が一挙放送

出番を終えた途端、"政次ロス"なるワードがTwitterのトレンドに浮上、追悼CD『鶴のうた』(初回仕様はフォトブック付き)が緊急リリースされるほどの現象を巻き起こしているのは、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』で高橋一生が演じた井伊家家老・小野但馬守政次。本心を内に秘め決して表情には出さず、むしろ裏腹な言動を取りながら主・今川家を欺き、井伊家を守るという本懐を遂げた非業の死は、悲しみの中にも至高の愛が貫かれる名場面となった。この複雑な役どころを演じながら、高橋一生が同時期に並行して撮影に取り組んでいたのが、連続ドラマ『カルテット』である。

無表情の中に広がる無限の表情

子役からキャリアをスタートし、名脇役として数々のドラマに出演。『民王』(テレビ朝日系、2015年)で扮した内閣総理大臣秘書・貝原茂平役ではカルト的人気を博し、貝原を主役としたスピンオフドラマ『民王スピンオフ~恋する総裁選~』(2016年4月放送)なども制作され、現在の大ブレイクの礎に。高橋は当時、「表情筋を使わずにいかに芝居するか?」という方法論を追求し始めており(※注)、ポーカーフェイスでツンデレな策略家・貝原という役どころはそれを体現する格好の場となっていた。

誰の目にも分かりやすい笑顔や泣き顔といった記号的な芝居とは真逆の、一見無表情にすら思える微妙で繊細な表情の変化。例えば微かに眉をひそめるとか、15度だけ目を伏せるとか、表情筋を「使わず」というよりも巧みに「使いこなす」アプローチを深化させたのが、政次であり『カルテット』のヴィオラ奏者・家森諭高だったように思える。政次は月のように静かな陰のキャラクター、家森は自ら道化役を買って出る陽のキャラクターだが、いずれも奥底に悲しみを湛え、叶わぬ恋心を胸に想う人の幸せを願って密かに献身する。

こういった一筋縄ではいかない多面的な役どころこそ、高橋一生の真骨頂ではないか。また、彼ほどに「ながら観」と画面に集中して観た時とで受け取る感情の情報量に差の出る役者もいないだろう。あたかも、観る側が心情を投影することで表情が浮かび上がってくる能面のように。『あさイチ プレミアムトーク』(NHK、8月4日放送)で映し出された自宅本棚に世阿弥の『風姿花伝』があったのは、偶然だろうか?

不憫な恋の達人

『カルテット』は、脚本家・坂元裕二の筆が冴えわたるラブサスペンスの傑作。松たか子、満島ひかり、松田龍平、高橋一生が扮する訳アリのクラシック奏者らが出会い、弦楽四重団(カルテット)を結成。一つ屋根の下共同生活する中でテンポよく繰り広げられる会話劇が大きな見どころだ。

第一話の「唐揚げにレモンを掛けるか? 掛けないか?」論争は家森の偏屈さを表わすシーンとして笑いを誘うだけでなく、重大な伏線となっていたことが後に明らかになるなど、重層的で入り組んだ物語が構築されている。長台詞の多いドラマであり、詩的で美しい名台詞も数えきれないほど出てくるのだが、それに負けずとも劣らず素晴らしいのが、やはり高橋一生の沈黙の芝居なのである。

例えば、第4話で家森が去り行く大切な人に手を振る場面は秀逸。短い時間の中で刻々と移り変わる表情は、どんな台詞よりも雄弁だ。また、片想いの相手・世吹すずめ(満島)にたこ焼きを買ってくる第8話には涙を禁じ得ず、(大河ドラマの政次もそうだったが)不憫な恋を演じる達人だ、とも唸らされる。観るたびに新しい表情を見出し、そこに更なる感情を読み取ることができる高橋一生の芝居。全話一挙放送される『カルテット』で、いくつの"発見"ができるだろうか?

※注:『民王スピンオフBOOK』1万字インタビュー KADOKAWA

Writer:大前多恵

※この記事はヨムミル!ONLINEの転載になります。

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放送情報

[字]カルテット「偶然の出会いに隠された4つの嘘…大人のラブサスペンス!!」 第1回

放送日時:2017年10月8日(日)11:00~

チャンネル:TBSチャンネル1 最新ドラマ・音楽・映画

※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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