1997年放送のドラマ「いいひと。」での楽天的な主人公・優二役で披露した自然体の演技で注目を集めたことをきっかけに、俳優としてもブレイクを果たした草なぎ剛(※草なぎの「なぎ」は正しくはゆみへんに「剪」)。以降は、映画『黄泉がえり』や、ドラマ「僕の生きる道」「僕と彼女と彼女の生きる道」「僕の歩く道」からなる"僕シリーズ3部作"などに代表される、さまざまなヒューマン・ドラマでピュアな青年を好演。映画では『日本沈没』『BALLAD 名もなき恋のうた』『任侠ヘルパー』などで大ヒットを飛ばし、舞台でも『父帰る/屋上の狂人』で、読売演劇大賞で杉村春子賞と優秀男優賞に輝くなど、2000年代はどんな役柄も自分に憑依させるという、彼の圧倒的演技力がほとばしる作品を数多く残したことは誰もが知るところだろう。
2020年には、映画『ミッドナイトスワン』で、トランスジェンダーとして身体と心の葛藤を抱える主人公・凪沙を熱演。親戚の少女へ無償の愛を注ぐ凪沙を慈愛に満ちたまなざしで演じきり、第44回日本アカデミー賞をはじめ、日本国内の主要な映画賞で主演男優賞を総ナメにしたことも記憶に新しい。
そんな草なぎの脂の乗りきった演技を観ることができるのが、2010年に放送された「99年の愛~JAPANESE AMERICANS~」だ。「渡る世間は鬼ばかり」などで知られる脚本家・橋田壽賀子が手掛けたドラマは、その生涯のテーマでもあった「戦争と平和」を軸に、世代を越えて現在に至る日系移民の魂、そして99年に渡るその変遷を通して、日本人の誇り、勇気、愛を問いかける物語だ。
同作で草なぎは、アメリカで生まれ、日本を知らずに生きるしかなかった"日系移民2世"としての宿命を背負った男・平松一郎とその父・長吉の若き頃の2役を熱演。そして、一郎への愛を貫き通した女性・しのぶには仲間由紀恵が扮する。
当時のインタビューでは、スタッフとキャストが一丸となって撮影に集中していたことや、橋田壽賀子脚本最大の特長でもある長ゼリフに苦労したものの、より感情が乗った演技ができたといった手応えを語っていた草なぎ。その発言の通り、本作での草なぎはいつもより抑えた低めの声で、一郎の堅実かつ誠実な人柄を表現。なかでも、一郎の母親・とも役の泉ピン子や弟・次郎役の松山ケンイチ、そして仲間と見つめ合うシーンでは、視線だけで一郎の心情を繊細かつ雄弁に伝える草なぎの演技に誰もが圧倒されるはずだ。
東京国際ドラマアウォードで、栄えある作品賞・単発ドラマ部門のグランプリを受賞するなど、高い評価を得た本作。2010年の放送当時も、全5夜連続で描かれた壮大かつ重厚な物語に多くの視聴者が心打たれ、その反響の大きさから、翌2011年の年末には2夜連続で8時間のディレクターズカットが放送されたほど。そんな傑作の呼び声高い本作は、草なぎを筆頭に、中井貴一、八千草薫、上條恒彦、岸惠子ら連ドラの枠を超えた豪華キャスト陣の名演技が光る愛と絆のドラマ。草なぎの名演をぜひ堪能して欲しい。
文=中村実香
放送情報
99年の愛〜JAPANESE AMERICANS〜
放送日時:2022年4月4日(月)18:00~
チャンネル:TBSチャンネル2
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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