高視聴率を記録した「さとうきび畑の唄」「女王の教室」「家政婦のミタ」など、数多くの人気ドラマを手がけてきた脚本家・遊川和彦。稀代のヒットメーカーとして知られる彼が『恋妻家宮本』に続いて映画監督を務めた2作目の作品が『弥生、三月 -君を愛した30年-』だ。ダブル主演を務めるのは、映画・ドラマと数多くの話題作に出演する波瑠と成田凌。「今までにないラブストーリーをオリジナルで作りたい」と意気込んだ遊川監督が、運命で結ばれた2人の男女が繰り広げる30年の愛の軌跡を、"全編3月の描写のみ"で描き出した壮大なラブストーリーだ。
本作で波瑠が演じるのは、嫌われることも厭わずに、自分が正しいと思ったことをまっすぐに貫き通す、強い信念の持ち主である結城弥生。一方の成田が演じるのは、大人になってもどこか成長しきれない部分がありながらも、その芯の部分では天性の明るさを持ち、弥生を支え続ける山田太郎。学生時代に運命的に出会った弥生と太郎は、互いに惹かれ合いながらも、2人の親友・サクラ(杉咲花)と死別したことにより、その正直な想いを伝えられないまま、やがて別々の人生を歩み出すことになる。
弥生と太郎は純粋で優しいが、生きることにはとても不器用だ。人生において数多くの挫折を経験している。そんな2人は学生時代から変わらず、お互いを意識し合っているにもかかわらず、運命のいたずらに翻弄され、すれ違いを繰り返していく。そんな2人の不器用な姿にやきもきしながらも、いつしかのめり込んでしまう。そうした物語の強さは、遊川作品ならではの醍醐味だ。
本作のオファーを受けた時、波瑠、成田ともに、遊川監督の脚本を読んで大いに感動したというが、それゆえにこの作品をしっかりと演じることができるのか、というハードルの高さも感じていたという。特に波瑠は、この作品を背負う自信がないというプレッシャーから一度は本作のオファーを断るつもりだったと告白している。だが波瑠の中に弥生像を重ね合わせていたという遊川監督は「弥生という人は嘘がない人。だからこそ弥生役はあなたがいい」と熱烈オファー。その情熱的な姿を目の当たりにした波瑠は「こういう情熱のある人と仕事をしてみたい」と思い直し、このオファーを受けることにしたという。
成田が「弥生の強さやピュアさ、まっすぐさは波瑠さんでなければ成立しない」と評する通り、曲がったことが嫌いな弥生は、劇中で"大事な人たち"がつらい目にあっていることを見逃すことができない。そんな弥生が持つ意志の強さ、爽やかさ、聡明さは実に痛快だ。そしてその姿を見た太郎(成田)は、またたく間に恋に落ちてしまうわけだが、その時の表情が実に良い。
そして大人になって教師になった弥生は、授業の中でも「あなたが転んでしまったことに関心はない。そこから立ちあがることに関心がある」というリンカーンの言葉を引用し、生徒たちに人生に向き合う姿勢を伝えようとしていた。得てして遊川作品では、芯の強さを持つ女性が描かれることが多いが、弥生はまさにその系譜に連なるキャラクター。そのりりしい姿は、太郎ならずともほれぼれとしてしまいそうだ。
文=壬生智弘
放送情報
弥生、三月 -君を愛した30年-
放送日時:2022年4月4日(月)19:30~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
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