今めきめきと頭角を現している若手俳優がいる。映画にドラマに出演オファーの絶えない20歳、細田佳央太だ。昨年は『花束みたいな恋をした』『青葉家のテーブル』『子供はわかってあげない』と出演映画が立て続けに公開された。
ドラマでも「ドラゴン桜」第2シーズンに生徒役で出演。ある問題を抱えながらも才能を開花させていく心優しい青年を細やかに表現し、そのリアルな演技は話題を呼んだ。「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」にも出演し、生まれた時から全盲という難役も見事に演じ切った。
2作とも目の演技が素晴らしく、若手実力派としての認知度をより一層高める作品となった。今年に入ってからも「もしも、イケメンだけの高校があったら」でドラマ初主演を果たすなど、その勢いは増すばかり。次世代を担う注目の若手は、ストイックすぎる役作りと確かな演技力を武器にさらなる飛躍を期待させる。
この稀有な才能は、2019年公開の映画『町田くんの世界』で広く世間に認知されることとなった。4月15日(金)にWOWOWシネマで放送される本作で、細田は1000人越えの応募者の中から映画初出演にして主演という大役に抜擢。W主演を務めた関水渚も同じく演技経験がほぼゼロと、まさしく超新人の2人は純粋で瑞々しい演技を見せた。
第20回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した安藤ゆきの傑作コミックを、『舟を編む』(2013年)や『茜色に焼かれる』(2021年)で知られる石井裕也監督が映画化した本作。人が大好きな町田くん(細田)が、人が大嫌いな猪原さん(関水)と出会って芽生えた"分からない感情"に向き合いながら、周りを巻き込んで世界を変えていくハートウォーミングな青春を描く。
細田が演じた主人公・町田一は、運動も勉強も苦手だがすべての人を別け隔てなく愛する才能を持つ。悪意に満ちているかもしれない世界は、町田くんからは違って見えている。細田が懸命に模索しながら寄り添った町田くんを通して見ると、この世界は少しずつ優しく温かいものに思える。
真っ直ぐでピュアな瞳につられて、誰かに優しくしたくなる。映画ならではの動きやコメディ色は原作の穏やかな雰囲気とは異なるが、彼の持つ温もりは作品の真ん中に確かに存在していた。川縁で傘を差しかけながら心を通わせるシーンなども微笑ましくほっこりさせられる。新人とは思えないほどの熱演に、汚れてしまった心が浄化されていくような思いがした。
そして、初々しい2人を支える豪華共演者にも注目したい。同級生役に岩田剛典、高畑充希、前田敦子、仲野太賀...と実力派が並ぶ。さらに、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、北村有起哉、松嶋菜々子といった顔ぶれも。まっさらな主演の2人が上手く引き立つのも、全員主役級なキャスト陣の安定感があってこそだ。
母役の松嶋が向ける眼差しも温かく大らかで、この母あっての町田くんなのだと感じられる。また、ある意味ではファンタジーのような町田くんの存在を現実世界と繋げる難しい役どころは、池松が器用にこなした。仲野が演じる愛すべきダメっぷりや飄々とした前田のクールな素振りも絶妙で、今や貴重な岩田や高畑が見せる制服姿と高校生らしい熱量も見応えがある。
彼らに全力でぶつかった経験が、今の細田の目覚ましい活躍に繋がっているに違いない。フレッシュな演技と名優たちの個性が融合して生まれた独特の世界観に浸るのもまた一興だろう。
文=中川菜都美
放送情報
町田くんの世界
放送日時:2022年4月15日(金)18:45~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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