元受刑者たちの更生をサポートする保護司に扮した映画『前科者』で、これまでにない慈愛に満ちた表情を見せた有村架純。2023年のNHK大河ドラマ第62作「どうする家康」において、松本潤扮する徳川家康の正室役で大河初出演が決定するなど、実に多彩な役どころで絶好調のキャリアを築いている。
そんな有村にとって、女優人生の転換点となった作品といえば、NHK連続テレビ小説の第96作「ひよっこ」(2017年)だろう。そして同作の脚本家・岡田惠和と再びタッグを組んだヒットドラマが、5月11日(水)深夜からホームドラマチャンネルにて放送される「姉ちゃんの恋人」(2020年)だ。
「姉ちゃんの恋人」は、有村にとって実に6作品目の岡田脚本作品。もはや気心の知れたコンビといっていいこの顔合わせだが、有村が演じた「姉ちゃんの恋人」の主人公・安達桃子も、有村自身の魅力がそのまま投影されたかのような、周囲を笑顔で包み込む明るく前向きなキャラクター。物語も序盤はあくまで明るくほのぼのとしたホームドラマの雰囲気だ。だが、ストーリーが進むにつれ、登場人物たちが抱える過去の重いトラウマが見えてくる。
27歳の桃子は高校3年生の時に両親を事故で亡くし、3人の幼い弟たちとの生活を守るために大学進学を断念。親戚の紹介で就職したホームセンターで働いている、ちょっとガサツなくらいの"肝っ玉姉ちゃん"だ。10月期にカンテレ・フジテレビ系で初放送されたこともあり、ドラマは現実の季節感とリンクさせたハロウィーンからクリスマスにかけての物語として描かれていく。
King & Princeの高橋海人(※「高」は正しくは「はしご高」)が演じた20歳の和輝ら、3人の弟たちとのやり取りは、王道のホームドラマらしい温かさに満ちていて、ちょっとそそっかしい桃子と、そんな姉を心配する弟たちの会話に癒やされる。
そんな桃子の恋のお相手となるのが、ホームセンターの配送部で働く吉岡真人(林遣都)。桃子がリーダーを任されることになったクリスマスプロジェクトのメンバーとして、顔を合わせる2人。自分と同じような価値観の真人に惹かれ、浮かれる桃子は恋する乙女そのもの。恋のはじまりはとにかくキュートで、桃子と真人の出会いが描かれた第1話は、地上波放送時、ドラマタイトルがTwitterのトレンド上位に浮上する反響ぶりだった。
だが、桃子と真人それぞれが抱えるトラウマがだんだんと明らかになり、この作品が単なるほのぼのストーリーではないことが判明する。
早くに両親を亡くし、大変な境遇を乗り越えてきた桃子ではあるが、常にポジティブな彼女には暗い影はそれまで感じられない。にも関わらず、桃子がふと漏らす「しょうがないと思うんですよ、起きてしまったことは。大事なのは、そのあとどう生きるかだから」というセリフが心に残る。
表面的な性格の明るさとは関係なく、普段は覗かせることのない、彼女本来の芯の強さ、しなやかさが具現化する印象的な場面だ。それがまた何気なく、サバサバとした口調で言ってのけるあたりが、桃子という人柄をよく表していて、胸を打たれる名シーンに仕上がっている。
また第5話には、真人が桃子に自分が歩んできた辛い過去を打ち明ける場面も。「俺はそんな奴なんです。すみませんでした、黙ってて...」と自嘲する真人を、桃子は何も言わずただ抱きしめる。そんな彼女の強さ、愛情の深さは、そのまま有村架純という女優の芯の強さだ。
有村の代表作「ひよっこ」で演じたみね子役も、一見すると朗らかで明るい女性だが、ここぞという時には肝が据わっていた。そして「姉ちゃんの恋人」の桃子には、他者の心にそっと寄り添い、包み込むような包容力が加わったような気がする。同じ岡田脚本で描かれた2人のキャラクターを通して、有村が見せた成長が印象深い。
それぞれが抱える過去に折り合いをつけ、最終回で迎えるクリスマスはとてもロマンティックで、心がほっこりと温まる着地点というのも、とても素敵だ。どんなに面倒くさくても、他人に向き合い、寄り添い続けたからこそのハッピーエンディングは説得力に満ちている。有村自身の成長も印象づけた「姉ちゃんの恋人」を、この機会に改めてじっくり味わってみてはいかがだろうか。
文=酒寄美智子
放送情報
姉ちゃんの恋人
放送日時:2022年5月12日(木)3:00~
※毎週(木)(金)3:00~
※5月20日(金)は放送なし
チャンネル:ホームドラマチャンネル 韓流・時代劇・国内ドラマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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