多彩な役柄に挑戦してきた北川景子の武器は、硬軟自在のパフォーマンスで観る者を釘づけにする力

北川景子はチャレンジャーだ。2003年にテレビドラマ「美少女戦士セーラームーン」の火野レイ(セーラーマーズ)役で俳優デビューを果たすと、2006年の森田芳光監督作品『間宮兄弟』のオーディションを、森田作品を1本も観ないまま受けて、沢尻エリカが演じたレンタルビデオ店でバイトする女子大生の妹・夕美役をゲット！

「思ったままに演じればいい。そのままでいい」。そんな森田監督の言葉を信じて彼女が演じた夕美は、はすっぱな物言いで姉に意見し、ことあるごとに彼氏をミニハリセンで叩いてケラケラ笑っているような女の子だったが、その自然な芝居がとても魅力的で人を思いやる気持ちが全身から感じられたのが印象的。恋に破れた間宮兄弟の弟・徹信(塚地武雅)を慰めるように、後ろから抱きしめる芝居も思い出深いが、この現場で学んだことが役者としての北川のベースになっていることは、森田監督の葬儀の際に彼女が吐露した涙のコメントからも明らかだろう。

■様々な役柄に挑戦し、人気コミックスのキャラクターにもなりきる

確かな手応えを得た北川は、同じ年に『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』で早くもハリウッド映画デビュー。わずかな出演シーンながら、カー・メカニックのレイコ役に黒髪とノーメイクで挑み、存在感を見せつけると、2007年の映画初主演作『Dear Friends ディア フレンズ』ではガンを患い、自暴自棄になる女子高生リナを体当たりで体現して観る者の涙を誘った。

さらに、藤沢周平の同名短編小説を映画化した『花のあと』(2009年)では時代劇に初挑戦。仇討ちを志す女剣士の以登になりきり、半年間のトレーニングで身に付けたシャープな殺陣を炸裂させた。

そう、北川景子はキャラクターになりきることに長けている。その姿形がすでにできあがっているコミックスの映画化やドラマ化の場合は、特に本人もそこは意識しているようで、矢沢あいの人気コミックを映画化した『パラダイス・キス』(2011年)では自身が演じたエリート高校生・早坂紫の髪型や衣裳までを忠実に再現。40着以上ものオシャレな衣裳に身を包み、原作ファンもワクワクするようなポップでカラフルな世界観を目指すこだわりを見せていた。

■コメディからホラー、サスペンスへと振り幅の大きい出演作でもブレない軸

役を生きる。役になりきる。一貫してそこに重きを置いているから、北川が演じるキャラクターたちはいつも魅力的で、少々ぶっ飛んでいても愛らしいのだろう。その代表的なキャラが、2011年の本屋大賞第1位に選ばれた同名ベストセラー小説を原作とする大ヒットドラマの劇場版『映画 謎解きはディナーのあとで』(2013年)で演じた超お嬢様刑事の麗子だ。お高くとまっているのにちょっぴり抜けている、そんな彼女を櫻井翔が演じた毒舌の執事がやりこめるお決まりのパターンが原作ファンにも大ウケ！ぷりぷりキレる北川が可愛くて、櫻井との絶妙なコンビネーションも話題になった。

様々なキャラクターや役柄に果敢に挑み続け、それらを次々に自分のものにしていく北川の躍進は目覚ましい。深田恭子と共演した『ルームメイト』(2013年)ではホラー映画の世界に飛び込み、通常の芝居とは異なる、恐怖で脅え、絶叫して目を見開くといったホラー映画ならではの表現でヒロインの春海を怪演！本作の後半では、春海を巡る不可解な精神状態を繊細な芝居で成立させ、映画に説得力をもたらした。

さらに、感涙の実話を映画化した『抱きしめたい-真実の物語-』(2014年)では、高校時代の交通事故の影響で左半身が麻痺し、記憶障害を抱えながらも懸命に生きる女性・つかさを、ノーメイクの顔を歪ませながら泣き叫ぶ生々しい芝居で体現。まるでドキュメンタリーを観ているかのような彼女の壮絶な姿に心を激しく揺さぶられ、その狂おしくもまっすぐな「生」が脳裏に焼きついた人も多いはずだ。

それにしても、コミックスのキャラクターから実話の人物まで完璧に演じ切る北川の振り幅の大きさには改めて驚かされる。彼女の中にはたぶんその区分けはないのだろう。与えられた役を生き、その世界を通して観た人に何かを伝えたり、問いかけたりすることにしか執着していないのかもしれない。

その証拠に、その後の彼女のフィルモグラフィーを見ても限りなく自由で、変幻自在。恩田睦の小説「夢違」が原作の人気ドラマの劇場版『悪夢ちゃん The 夢ovie』(2014年)では、夢で未来が見えてしまう少女の悪夢を読み解く女性教師・彩未を真摯に演じ、ある種不可解なドラマを現実世界と繋がる身近なものに。生徒役の子どもたちと真剣に向き合っている姿にも好感が持てた。

『スマホを落としただけなのに』(2018年)では逆に、恋人がスマホをタクシーに置き忘れたせいでとんでもない恐怖を味わうことになるヒロインの麻美を等身大で演じながらも、後半ではおぞましい空間で絶叫芝居を爆発！現実と地続きになっている作品のテーマを、最恐のサイコ・サスペンスにスライドさせて伝える役回りを見事にこなしていた。

対照的な作品を振り子のように交互にチョイスするのももちろん意図的なことだろうが、演じる役に対して一切妥協しないスタンスは共通している。楽園のような孤児院が舞台の『約束のネバーランド』(2020年)では、鬼に献上する孤児たちを監視するイザベラを、表向きのやさしい笑顔と恐ろしい裏の顔を使い分けながら怪演。衝撃の事実を知って脱走する孤児たちを、表情をまったく変えずにどこまでも追いかける北川に戦慄を覚えた人も少なくないはずだが、その迫真の恐怖こそが本作の世界観を成立させていたのも疑いようのない事実だ。

そして、直木賞作家・島本理生の同名サスペンスを映画化した『ファーストラヴ』(2021年)では、父親を殺害した容疑で逮捕された女子大生の環菜(芳根京子)を取材する公認心理師の由紀に扮した北川が、自らの発案で髪の毛を30センチ以上もカット。環菜の深層心理に切り込みながら、封印した自らの忌まわしい過去と向き合うことになる由紀に説得力を持たせ、本作のテーマが「物語」の中だけにあるものではないことを強調した。

こうして、スクリーンデビューからの15年を、多彩な役柄に全身で挑みながら駆け抜けてきた北川景子。いまでは日本を代表する実力派俳優の一人になった彼女だが、これからの10年、20年も硬軟を自由に行き来する驚きのパフォーマンスで観る者を釘づけにするのは間違いない。

文＝イソガイマサト

イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「Movie Walker Press」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。

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