新垣結衣と星野源の共演で社会現象を巻き起こしたドラマ「逃げ恥」の魅力！

新垣結衣と星野源が共演した2016年放送のドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(以下「逃げ恥」)は、新垣自身が「すべてのピースがぱちっとハマったようなドラマ」と自負するほどに、あらゆる要素が見事に融合した、奇跡的なドラマだった。初回放送時から口コミが広がり、一度も数字を落とすことなく毎週、右肩上がりの視聴率をマーク。最終回では、タイムシフト視聴などを含めると20.8％を記録し、当時は「逃げ恥ロス」という言葉がちまたにあふれた。

まさに社会現象ともいうべきドラマとなった「逃げるは恥だが役に立つ」、そしてその4年後に放送された特番「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類！新春スペシャル！！」だが、この「逃げ恥」の何がそこまで視聴者を魅了したのか。

"ムズキュン"と呼ばれる、主人公ふたりが織りなすじれったくもかわいらしいやりとり、そして契約結婚というモチーフを「お仕事ドラマ」に昇華させたユニークなストーリー、男女格差などの社会問題を誰もが共感できる内容に落とし込んだ現代的なテーマ性、「多様性」あふれる愛すべきキャラクターたち、星野が担当する主題歌「恋」に合わせて出演者たちが踊るキャッチーな「恋ダンス」、そして新垣演じるみくりの妄想として、スタッフが全力で取り組んだ有名テレビ番組のパロディーの数々。

そして本作でもパロディー化されている某鑑定番組のように思わず「いい仕事してますねぇ」と言いたくなるような、繰り返し視聴必須の細かい小ネタ(講談社から発売中のシナリオブックに掲載された小ネタ集を見ると、ほとんど視聴者が気付かないような、こんなところにまでこだわりが...と驚かされる）など、「チーム逃げ恥」と呼ばれるキャスト、スタッフ陣が織りなす仕事の見事さは、ここでは語り尽くせないほど多岐にわたる。

高学歴なのに無職となり、「誰からも必要とされない」という感覚に陥っていた森山みくり(新垣)は、ひょんなことから家事代行を行うことになった真面目なサラリーマンの津崎平匡(星野)と「仕事としての契約結婚」を結ぶことになる。当初は仕事上の雇用関係だったはずの二人だったが、次第に互いを意識するようになる、というのがドラマ版でのストーリーだ。恋愛経験がなく、自己肯定感の低い平匡の心の壁を崩すために、毎週火曜日だけは"ハグの日"を制定。最初はぎこちなかった二人のハグだが、やはり立場が人を作るとでもいうべきか。次第に平匡の心の壁も取り払われていくが、実はみくりの心の呪縛も取り払ってくれることになる、というふたりの関係性を体現した星野、新垣コンビの演技が感動的だった。

そしてスペシャルドラマでは、雇用主と従業員という関係だった二人が、共同経営者という関係性で家庭を切り盛りするパートナーに変化。冒頭での変わらぬ二人のやりとり、関係性にホッコリしつつも、みくりの妊娠で事態は急展開。根は優しい平匡の、良き夫でありたいという思いが空回りしてしまい、ふたりの関係はギクシャクしてしまう。

だが愛情を持続させるためにはどうしたらいいのか。ふたりは何度も話し合い、そしてより良い関係性を探ろうとする。そして実際の撮影現場でも、星野と新垣は監督らも交えてしっかりと話し合い、役を作りあげたという。どうやったら相手を幸せにできるのか。自分の中の殻を破らないと相手に寄り添うことはできない。体裁は口当たりの良いラブコメディーだが、ここまで「愛」というテーマに真剣に向き合った作品はなかなかないだろう。

そして今回のスペシャル版は「男ならこうあるべきだ」「男だからこれをしちゃだめだ」といった社会的な呪縛からの解放といったテーマを足がかりに、「男性の育児休暇」「日本人の働き方への意識改革」といったテーマにも果敢に切り込んでいく。そしてそこからさらに、コロナ禍における人と人との関係性というテーマにも正面から向き合うこととなる。くしくもそこで先述した"ハグ"というモチーフが強烈に活きてくることになった。ハグをしたいのにハグができない。会いたい人に会えない。そんな感情に平匡とみくりはどう向き合ったのか。多くの国民に愛された「逃げ恥」だからこそ描けた「スペシャル版」にも注目だ。

文＝壬生智裕

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