2018年度前期連続テレビ小説「半分、青い。」でヒロインの親友役に抜擢され、一躍全国区の女優となった奈緒。ヒロインの永野芽郁をはじめ、佐藤健ら名だたるメインキャストの中で当時は無名の新人とも言われた。しかしその実、名脚本家・野島伸司が総合監修を務める俳優養成スクールで特待生に選ばれるほどの原石。本物俳優主義の理念のもとで演技力を着実に磨いていた。翌2019年のドラマ「あなたの番です」ではサイコパスのストーカー役を怪演し、話題を呼んだ。その実力は、映画『君は永遠にそいつらより若い』(2021年)でも発揮されている。
芥川賞作家・津村記久子のデビュー小説を映画化した本作。緻密で力強い演出に定評のある吉野竜平が監督を務めた。就職が決まった卒業間近の女子大学生が、1学年下の女子と出会い、彼女との交流を通じて成長していく様を描いた青春ドラマだ。佐久間由衣と奈緒がW主演を務めた。
児童福祉職への就職も決まったホリガイは、大学卒業を間近に控え手持ちぶさたな日々を送る。変わり者とされているが自覚はない彼女はバイトと学校と下宿を行き来するだけの怠惰な日常を過ごしている。同じ大学に通う1つ年下のイノギと知り合い、過去に痛ましい経験を持つ彼女と独特な関係を紡いでいく。友人の死以降、ホリガイを取り巻く日常の裏に潜む暴力と哀しみが顔を見せる。佐久間が演じるホリガイは、自分には何かとても大切なものが欠けているという想いに駆られ、悩み焦りもがき苦しむ。葛藤する等身大の姿に共感を覚える人も多いだろう。ある種のモラトリアム的な大学生活で生まれる漠然とした不安は、誰しもが感じるもののように思う。自分の内側にばかり向かっていた意識が外側へ向いた時、この物語は動き始める。彼女に変化をもたらす存在が、奈緒演じるイノギだ。
社会や現実の間で宙ぶらりんになったホリガイの青臭さを体現する佐久間に対し、どこか儚げな佇まいでイノギを演じている奈緒。秘密を打ち明ける時のさりげなさやホリガイの青臭さを受け止める強さが痛々しい。心の奥底に哀しみを湛え、それでもどこか救いを求めているような表情が印象に残った。イノギの優しさがホリガイを変え、ホリガイの優しさがまた救いにもなる。台所でマグカップを手に語らう場面や牡蠣を豪快に食べまくる場面での2人のやり取りも自然でいい。互いに少しずつ心を開いていく様子から、人と人との関わりの大切さが丁寧に描かれていた。
今年に入っても映画やドラマに舞台と活躍を続けている奈緒。この秋公開を控える映画『マイ・ブロークン・マリコ』では、永野芽郁と再共演しまた異なる姿を披露している。どの作品でも変幻自在にイメージを変え、作品に調和しながらもきらりと輝きを放つ。今作で見せた強さと弱さは彼女にしか出せない色だ。
文=中川菜都美
放送情報
君は永遠にそいつらより若い
放送日時:2022年6月20日(月)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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