沢田研二が主演、三谷幸喜が脚本を手がけ、今から28年前に放送されたスペシャルドラマが『総務課長戦場を行く!』だ。当時、40代半ばの沢田研二が演じたのは温厚で平凡な会社員、山倉久志役。通勤途中に隣の人が読んでいる新聞の"国際平和援助隊派遣決定"の見出しを横目で見ていた山倉だが、会社に行くと総務課長である山倉宛てに届いていたのは国際平和救助隊の召集令状だった。上司に「何かの冗談ですか?」と慌てて尋ねる山倉だったが、もちろん、令状が届いたのは彼だけではない。バブル時代の平和ボケした日本で働く男たちを突如襲う予想もしなかった事態。ビバノン国でボランティア活動をすることにどうにもこうにも実感が持てない面々を鍛える教官の小森谷役をブレイク前の阿部寛が演じている。ちなみに"古畑任三郎シリーズ"がヒットする前のドラマであり、三谷幸喜ならではのシニカルなコメディセンスに爆笑の連続。美しきスーパースターのイメージが強かった沢田が演じた役柄、トボけた風情の演技が貴重すぎる。
■"写ルンです"を大量に持たされて戦場に向かう沢田の演技が最高
沢田演じる山倉の妻役は萬田久子。どんよりした夫をそっちのけで「ただで外国行けるんだからよかったじゃない?」とはりきって荷物を用意し、ヤング館で買った赤の上下のジャージと、せっかくだからと"写ルンです"を大量に持たせる。とはいうものの、山倉も山倉で送り出される時にTVの録画を頼んでから出発するから、夫婦ともに危機感ゼロ。一行はビバノン国に向かう前に富士山麓で一人前の兵士になる訓練をすることを聞かされるが、荷物がやたらに多く怒られる人がいたり、仕事の電話をしている人がいたりと珍道中になる予感満載。山倉はバスで隣の席になった全共闘世代の本田(前田吟)にビールをもらい、管理職だからと分隊長に任命されるハメになる。不安と憂鬱が入り混ざった複雑な表情で、お人好しの会社員を自然体で演じる沢田研二がいい味を出している。
■現実感の薄い7人組は厳しい教官をオタク呼ばわりするが?
山倉を始めとする分隊7人はタクシー運転手、広告代理店勤務、歯科医などさまざまな職業についていて、なぜかオジさんが中心。戦場に向かう前に体力をつけ、集団行動を身につけるべく、阿部演じる小森谷のもと厳しい訓練を受けることになるのだが、部屋で酒盛りをしたり、ダラダラしていたりと平和ボケが抜けず、怒られっぱなし。気温が高い現地での生活に適応できるように食事は缶詰、エアコンも切られている日々に耐えられず、山倉、本田たちは深夜に宿舎を抜け出し、ハンバーガーを食べに行き、またまた大目玉。分隊長として山倉が小森谷の部屋に直談判に行ったものの、「あなた死にますよ」とバッサリ言われるシーンも、2人のやりとりが面白い。みんなで教官を陰で軍事オタク呼ばわりするなど、ほとんど中学生の合宿と化しているのだが、なんとか訓練を終えて現地入りしてからのどんでん返しがさすが三谷幸喜。頼りないながらも人柄の良さでチームをまとめていく沢田が、見ている内にスター・ジュリーではなく、山倉にしか見えなくなってくる。そして妻に持たされた"写ルンです"の伏線回収にもビックリ。今となってはレアすぎる傑作ドラマだ。
文=山本弘子
放送情報
総務課長戦場を行く!
放送日時:2022年6月30日(木)15:00~、7月6日(水)8:55~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら