大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で源義経を好演した菅田将暉。悲劇の天才武将として知名度も高く、様々なイメージが定着している難役だが、三谷幸喜の脚本のもと新しい義経像を作り上げた。人を信じすぎるほどの純粋さを持ち、愚直でありながらクレバー。戦場では恐るべき発想を実行に移す天才軍略家は、時に憎たらしく愛らしく、最期にはかっこよく散っていく...そんな人間味あふれる義経を菅田が見事に演じきった。
5年前に初出演を果たした大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017年)からさらに成長した姿を見せ、その演技力の高さが改めて証明された形だ。どんな難役も自分のものにしてしまう名優へと成長した菅田だが、近作の中では『CUBE 一度入ったら、最後』(2021年)でも新しい一面を見ることができる。
謎の立方体に突然閉じ込められた男女6人。エンジニアの後藤や団体職員の甲斐らには、年齢も性別も職業も何の接点もつながりもない。理由が分からないまま脱出を試みるが、熱感知式レーザー、ワイヤースライサー、火炎噴射などの殺人的なトラップが次々と襲いかかる。仕掛けられた暗号を解明しなくては、そこから抜け出すことは絶対にできない。体力と精神力の限界、極度の緊張と不安から、徐々に人間の本性が表れていく中、恐怖と不信感の中で終わりの見えない道のりをひたすら進んでいく。
密室サスペンスの先駆けとして世界中でカルト的人気を誇るヴィンチェンゾ・ナタリ監督による映画『CUBE』(1997年)を清水康彦監督がリメイクした本作。ナタリ監督自身がクリエイティブアドバイザーを担当しており、初の公認リメイクとなった。オリジナル版は立方体が連なる空間からの脱出と謎解きを中心に極限状態での欲深い人間の姿を浮かび上がらせたが、本作では登場人物を変更して彼らの背景を掘り下げて描くことでドラマ性が加えられた。
伝説のカルト映画のリメイクとあってかなりハードルの高い本作の主演を菅田が務めた。菅田が演じる後藤は、頭脳明晰なエンジニア。謎の部屋に閉じ込められたことを受け入れ脱出の糸口を探るが、時間が経つにつれて過去のトラウマと向き合うことになる。トラップに対して素直なリアクションを取るが、他の人間たちの動向を冷静に観察している姿が印象的だ。
一方で、突然取り乱すなど何らかの暗い過去を抱えている素振りも。反応に嘘がなく、力が入りすぎていない自然体の演技のおかげで、異常な設定の物語がリアルに感じられる。必死になって謎を解こうと覚醒していく様やトラウマを突きつけられた時の熱演は流石だ。
菅田のほかにも杏、岡田将生、斎藤工、吉田鋼太郎ら豪華キャストが出演し、異様な密室で絶望的な恐怖と不信感を募らせていく中で、それぞれのドラマが展開する。見ているこちらに緊張と閉塞感まで伝わってくるほどの熱のこもった演技によって、作品がより見応えのあるものに仕上がった。菅田ら実力派たちの熱演と新しい『CUBE 一度入ったら、最後』の世界観に一度触れてみてほしい。
文=中川菜都美
放送情報
CUBE 一度入ったら、最後
放送日時:2022年7月15日(金)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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