広瀬すずとW主演を務めた映画『流浪の月』が大ヒットとなった松坂桃李。近年、俳優としての幅を広げている松坂が主演の吉永小百合(白石咲和子)を追って金沢の"まほろば診療所"で運転手として働く医大卒業生(野呂聖二)を演じたのが『いのちの停車場』である。本作には診療所の看護師(星野麻世)として広瀬すずが出演し、院長には西田敏行、みんなが集まる休息のお店のマスターに南らんぼう、在宅医療を選んだ患者や家族に小池栄子、泉谷しげる、松金よね子、柳葉敏郎、森口瑤子、金沢時代の佐和子の隣人でがんと闘う女流囲碁棋士に石田ゆり子、小児がんを患う少女の母親に南野陽子、佐和子の父親に田中泯と実力派が顔を揃えている。誰もがいつかは迎える生命のしまい方について、どう向き合うのか視聴者に問いかけてくる作品で、最期を迎えていく多くの人たちと出会い、戸惑い、葛藤し、成長していく青年の役を松坂が演じた。長年、救急医療に携わってきた佐和子、金沢の診療所で大きな心でスタッフや患者に寄り添う院長、色々な人生観を持っている患者の面倒を見て、日々、奮闘する麻世。その中で野呂だけがお手伝いという立場ということもあり、患者や家族の想いを冷静に受け止められず、感情が揺れまくってしまうのである。佐和子にかわいがられ、麻世に"野呂っち"と呼ばれ、イジられている松坂が見せた演技とは?
■臨終間際の父親の息子になりきる松坂の演技が切ない
優秀な医師であった佐和子が東京の病院を辞めることになったのは、医師の資格を持っていない野呂が交通事故に遭った少女が苦しんでいるのを見ていられず、医療行為を行ってしまったことへの責任をとったから。佐和子は地元の金沢に戻り、在宅医療も行う"まほろば診療所"でこれまでと全く違う環境で働くことになるが、ほどなくして野呂は尊敬していた佐和子を訪ね、同じ職場で働かせてほしいと懇願する。戸惑う佐和子だったが、院長は歓迎。自転車で患者の家を訪ねていた麻世も、車で金沢まで駆けつけた野呂を運転手として最適だと受け入れる。さまざまな理由で在宅医療を選ぶ人たちを見て驚きを隠せない野呂だったが、ある日、ついに大役を任せられることになる。末期癌を患って地元に戻ってきた元高級官僚(柳葉)は子供の頃に息子とよく遊んだプラレールを部屋に置いて床についているが、息子とは連絡が取れないまま。いよいよという時に佐和子は野呂に息子のふりをするように命じ、野呂は戸惑いながらも涙ながらにプラレールで父と遊んだ思い出を話し、「心配かけてごめん」と意識が朦朧としている患者に話しかける。帰りの車の中、佐和子と交わす会話も染みてくる。
■小児がんと闘う少女、萌との間に生まれた絆
萌(佐々木みゆ)になつかれ、呼び捨てにされている野呂は「変顔して」と頼まれると笑って拒否しながらもゴリラのモノマネをしたりと、萌の遊び相手でもあり、相談相手でもある。我が子の病気を治したいあまり、時には口論になってしまう両親に心を痛めている萌は病室で野呂にだけは「海に行って人魚になれるよう神様にお願いしたい」と本当の気持ちを打ち明ける。海なんて無理だと反対する両親を佐和子と麻世で説得し、嬉しそうな萌の顔を見て、いきなりパンツ一丁になり、「萌ちゃ〜ん、人魚になれる海だよ!」とはしゃいで一緒に泳ぐシーンには心を揺さぶられずにはいられない。道化師にならなくてはならない経験をする野呂は、辛いポジションであると同時に萌やトラウマを抱えている麻世にとっては光のような存在。圧倒的で自然体でもある吉永小百合の存在感は言うまでもないが涙しながら懸命に生命と向き合う松坂の演技は希望を浮かび上がらせる。
文=山本弘子
放送情報
いのちの停車場
放送日時:2022年8月17日(水)08:45~、2022年8月23日(火)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ、WOWOW 4k
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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