斎藤工、三浦友和らと共演したクライムエンターテインメント映画『グッバイ・クルエル・ワールド』が公開中であり、中村倫也が宿敵を演じた『仮面ライダーBLACK SUN』も話題となった西島秀俊。世界的俳優として注目を集めている西島が20代後半、アイドル路線を脱却する時期に撮影された映画が『2/デュオ』だ。
恋人役の柳愛里(作家・柳美里の妹)と共演した本作は台本無し、全編即興劇で構成されている。監督はTVドキュメンタリーの演出を手がけ、カンヌ国際映画祭では『M/OTHER』で高い評価を得た諏訪敦彦。ドキュメンタリー出身の監督だけあって、狭いアパートで暮らし、すれ違っていくカップルの日常をリアルに映し出した作品となっている。本作で西島が演じているのは、俳優を志しながらも、うだつのあがらない自分に苛立っている青年、圭。やや長めの髪に無精髭の西島の顔には時折、初々しさすら感じられ、即興劇とは思えない自然な演技、間合いの取り方は後に北野武監督の映画『Dolls』の主演に抜擢されることになるなど、俳優としての躍進を予感させる。恋人を追い詰めていってしまう西島の緊迫感溢れる演技が刺さってくる。
■口癖は「お金くれ」。西島が無気力で精神不安定な男を演じる
ヒモ男とかクズ男と言ってしまえば、それまでだが西島が演じる圭が葛藤していることが伝わってくるため、ヒリヒリとした痛みを伴うのが本作だ。ブティックでバリバリ働いている優(柳)と一緒に暮らしているが、撮影に行っても、シーンの変更で出番がなくなり、俳優になりたいという夢に心折れかけてている圭には全く余裕がない。アパートに帰ってきて洗濯機を回しながらベランダに座りこんでボーッとしている表情は空虚そのものだ。とは言え、このままではいけないと焦っている圭は優に唐突にプロポーズをするが、優はちゃんと自分の気持ちを伝えてくれない圭に納得できない。そのことで2人の溝はどんどん大きくなっていく。「お金くれ」が口癖で優が話し合おうとすると「知らねーよ!」とブチ切れ、出ていってしまう圭を心配するあまりに優の心もどんどん疲弊していく。彼女に八つ当たりしていることを自覚しながらも、自分がコントロールできない圭の行動は読めず、穏やかな口調が一変する西島の演技は緊迫感を加速させる。狭い部屋の中に漂う息苦しさ、お互いを思いやろうとするほどにすれ違い、空回りする2人は出口のない迷路で溺れかかっているようだ。その閉塞感が実にリアルに表現されている。
■突然、姿を消す優。途方に暮れる圭は覚醒するのか?
コップの水が溢れ出すように優の我慢は限界点を超え、ある日、優は圭が買い物に行っている間に忽然と姿を消してしまう。「どこに行くの?」と聞かれても答えずにアパートの部屋をふらっと出ていっていた自分と同じことをされたのだ。困り果てた圭が優の友人、ユキ(渡辺真紀子)に連絡をとり、喫茶店で会い、上から目線の態度に呆れられるシーンでは終始、西島の背中だけが映り、捨てきれないプライドと惨めさを物語る。ある1組の男女を追ったドキュメンタリーであるかのように圭と優のインタビューが挟みこまれる構成で、自分の心境をカメラに向かって話すシーンは視聴者が緊張感から解放されるセクションといってもいい。後半で西島がやっと見せる屈託のない笑顔が印象的だ。息苦しい部屋にひとり取り残された圭は自分と向き合えることができるのか?優はどんな自分を見つけるのか?エンディングが余韻を残す。
文=山本弘子
放送情報
2/デュオ
放送日時:2022年11月12日(土)20:45~
チャンネル:WOWOW4K
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