17歳の女子高生が、45歳の冴えない中年男に密かな恋心を抱く。年の差は28歳。この難しいテーマを、小松菜奈、大泉洋というキャスティングの妙と、不器用ながらも真っ直ぐに生きていく登場人物たちの繊細な心情を丁寧に描き出して、話題を集めた映画『恋は雨上がりのように』。
原作は眉月じゅんの人気コミックで、監督は『世界から猫が消えたなら』『帝一の國』の永井聡。主人公の橘あきらには、原作連載時からビジュアルが似ていると評判を集めていた小松菜奈。あきらの持つ一見クールな佇まいを体現した外見はもちろんのこと、その内側に秘めた複雑で繊細な心情を演じられるのは彼女しかいない、という製作陣の期待を受けて抜擢された。
また元陸上部のエースという役柄に説得力を持たせるために、クランクイン前からトレーニングを始め、撮影中も腹筋などの身体作りを欠かさなかったという小松。その甲斐あり、ところどころで挿入される陸上のシーンは躍動感に溢れているが、特にオープニングのアクロバティックで、疾走感溢れるランニングシーンは出色。一気に物語の世界に入り込むことができる。
アキレス腱の怪我のために陸上の夢を奪われ放心状態だったあきらは、偶然入ったファミレスで店長の近藤と出会い、そこでバイトを始める。絶望の中でほのかな光を見出したあきらは、店長の近藤に恋心を抱き、その思いを真っ直ぐにぶつけるが、当の近藤はバツイチ子持ちであること、そして年の差などもあり、あきらの思いを正面から受け止めきれずに戸惑うばかり。だが、そんなあきらのまっすぐさに触れるうちに、自分の夢であった小説への思いを再び見つめ直すことになる。
近藤は、どこか冴えないコミカルな部分がありながらも、あきらが好意を寄せるような魅力を兼ね備えたキャラクター。そこにあきらを包み込むような優しさをも醸し出すことができる大泉はピッタリなキャスティングだった。原作者の眉月じゅんがインタビューで「45歳と17歳の"青春"が出会った――そんな日常青春モノ」と語っていた通り、夢を追い続け、挫折した2人が再生に向けて一歩を踏み出す姿はいくつになっても変わらなく、2人が優しく寄り添う姿がグッと胸を打つ。
そしてそんな二人の姿を繊細でスタイリッシュな映像美で切り取ったのが、CM、PVなどで高い評価を受ける気鋭の女性カメラマン市橋織江。映画作品は『ホノカアボーイ』など数えるほどしかないが、ここでもきらめくような映像美は健在。タイトルにもある雨のシーンをはじめ、2人を捉えた映像はどれも柔らかくて優しい。それはまさに、雨宿りのようにひととき心を寄り添わせた二人をそっと見守り、優しく背中を押してくれるような温かさがある。
文=壬生智裕
放送情報
恋は雨上がりのように
放送日時:2022年11月12日(土)16:20~
チャンネル:WOWOWシネマ
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