数々の作品に出演し、どの役も代表作に育てあげた大俳優・藤田まこと。時代劇コメディー「てなもんや三度笠」(1962年)でコメディアンとして一世を風靡した後、時代劇「必殺仕事人」の中村主水役で俳優としての地位を確立した藤田の、最も有名な作品といえばやはり刑事ドラマ「はぐれ刑事純情派」シリーズだろう。
同ドラマは、1988年から2009年まで連続ドラマやスペシャルドラマとして22年にわたって放送された人気刑事ドラマシリーズ。藤田演じる安浦刑事が、強い正義感と温かい心で犯罪に苦しむ人たちに寄り添いながら捜査に当たっていく姿を描く。
安浦刑事は人情ゆえの突飛な行動で上司である刑事課長を困らせる場面もあるが、警察署内では誰からも頼られる父親のようなポジションで、穏やかな口調と説得力のある物言いで、仲間たちを支えながら背中で仲間を鼓舞しワンチームを形成する核のような存在である。藤田は存在感がありながらも淡々と演じることで、キャラクターの持つ安心感や器の大きさを表現している。安浦刑事役で藤田を知った世代の人は、おそらく藤田がコメディアンだったことはにわかには信じられないだろう。
また、携帯電話を忘れがちで、あえて携帯しないといった放送当時の"おじさん感"や、安浦家での2人の娘とのやり取りにおける"娘に振り回される父親感"など、ちょっとした隙のようなものをまとうことで、「犯罪者たちに人生を説く安浦刑事も一人の人間である」という面をしっかり見せている。そんな思わずクスリとさせられてしまう部分も含めた人間性を表すことでキャラクターの魅力を構築しており、小手先の芝居ではなく内からにじみ出る人間性を演じるという"役者"の真骨頂を見ることができる。
そんな安浦刑事の活躍を描いたシリーズの中で、第11シリーズの初回スペシャルには、先日急逝したザ・ドリフターズの仲本工事が出演。ある日突然家族の前から姿を消すも、いつも家族のことを思いやっている父親・望月真一を熱演している。安浦刑事と望月、捜査する側と捜査される側という相反する立場ながら、同じ"子を持つ親"というところで共通点もあり、藤田と仲本それぞれの演じる"子供への愛"をじわりと感じさせてくれる父親像から"いぶし銀"の芝居の奥深さを感じることができる。
コメディアンとして人の心を震わせることに長けている2人だからこそなせる"いぶし銀"の演技を、追悼の念を込めて改めて堪能してみてはいかがだろうか。
文=原田健
放送情報
はぐれ刑事純情派(第11シリーズ)[新] #1
放送日時:2022年11月6日(日)15:00~(無料放送)
チャンネル:東映チャンネル
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